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Café アヴェク・トワで恋して20 

おそらく、余計な話をせずに、もっと早くそうしたかったのだろうが、切り出すのに躊躇していたようだ。
松本は少し冷めたコーヒーを、ゆっくりと口にした。

「あの……相良は元気にしていますか?酷い目に遭わせてしまったので、ずっと気になっていました。渡仏前に心残りがあるとすれば、彼に謝れなかったことです。訪ねて謝るつもりが、結局は顔を見た途端血が上って、取り乱してしまいました。……その節は……お恥ずかしい姿をお見せしました。詳しい話は、相良からお聞きになったでしょうね。」
「多少はな。今でこそましになったが、直は最初、俺に会った時、まるで対人恐怖症のようだったよ。」
「そうですか……。」
「俺の店に面接に来た時から、酷い有様だった。まともに人の目を見て話せない。誰かが近づくとひどく怯えて、体中が震えるんだ。とても菓子を作れるような状態じゃなかった。どれだけ皿を割ったか、見せてやりたいよ。その度に、申し訳ないって泣くんだ。……俺は、そういうやつを知っているから、直の様子を見て心療内科へ連れていこうかと思った。だが、結局は自分で立ち直ったようなものだ。」
「自分で……。」
「菓子を作りたい一心で、前を向いたんだ。あんたもそうだろう?生きてる以上、誰も同じ場所に留まっていることはできないからな。」

黒崎は深々と頭を下げた。

「黒崎……?」
「……ありがとうございました。」
「俺は何もしていない。」
「いえ……相良が……菓子を作っていると聞いて、救われた気がします……」

静かな店内に、男の押し殺した嗚咽が響いた。
直のすべてを取り上げた呵責に、耐えかねているのだろうか。
ふと思いついて、松本は聞いてみた。

「あんた、本当は直を傍に置いておきたかったんだろう?」
「……どうして……?」
「そのぐらいは分かるさ。男ってのは、不器用な生き物だからな。愛する方法を間違えたんだろ?苛めたりせずに、素直に好きだと言ってやればよかったんだ。直はあんたを心から尊敬していたんだから、きっと喜んだだろうよ。」
「できませんでした。相良には惹かれたし……可愛かった。だがそれ以上に、私は夢を語るあの子の感性に嫉妬していましたから。」
「嫉妬?なぜ、そんな必要がある?俺にはあんたの才能のほうがすごいと思うけどな。あんたが白鳥なら、直は生まれたてのひよこだろ?」
「このモンブランをどう思いますか?」
「ケーキ?……美味いけど?」
「相良は、初めてこのケーキを見た時、私にビクトリア時代の貴婦人のドレスだと言いました。私の作ったケーキのマロングラッセを事も無げに外して、マジパンで拵えた小さな人形を乗せて「ほら……」と言って笑ったんです。本当に踊っているようで驚きました。私にはそんな感性はない。常にギリギリのところでやっと作品を生み出していた私に、目の前で世界を広げて見せた相良は、わたしの脆い自尊心を笑顔で打ち砕いたんです。」

松本は黙って、話を聞いていた。
目の前のケーキのように、この男は繊細なのかもしれない。憎いけれど、愛おしい、そんな相反する感情を持て余していたのだろうか。




本日もお読みいただきありがとうございます。

松本が気付いた、黒崎の本音。

(´・ω・`)本当はぶちのめしたいくらいなんだけど、つい話を聞いてしまったぜ。一流ってのは、大変なんだな。

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