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Café アヴェク・トワで恋して 19 

口の中でほぐれたケーキの欠片に、思わず松本はうなった。

「……美味い。あんた、すげぇな。」
「そうですか。ありがとうございます。おかげさまで小手先の技術だけは習得できているようです。」
「俺は、ケーキの事はよくわからんが、うまいかどうかと聞かれたら、これまでに食ったケーキの中で一番うまい気がする。あんた、フランスなんかに行かねぇで、このままここでケーキを作ったほうがいいんじゃねぇか?店の客だって、悲しむだろ?」

黒崎は松本の言葉に、悲しそうに微笑んだ。

「それも考えました。ありがたいことに、遠くから来て下さる方もいらっしゃいます。でもね……、私は傲慢な私をどうしても許せないんです。」
「……というと?」
「ご存知の通り、小手先の技術に、私は慢心しました。世界的なコンクールで賞を取って、時代の寵児だともてはやされました。技術を見せびらかしたくて、新しいケーキを発表するたびに寄せられる感嘆に溺れました。周囲にちやほやされて、何をしても許されるんだと、思ってしまったんです。」
「誰だって、褒められればいい気になるさ。あんただけじゃない。」

松本は二口目を掬って、口に運んだ。

「こんなすごいものが作れるんだ。あんたは間違いなく、才能ある職人なんだろうよ。……直でなくともケーキを作るやつは、間違いなく憧れるだろうな。」
「そう思っていましたよ。何も気づかない裸の王様だったんですがね。……ああ、君。こちらのお客さまとは知り合いなんでね、少し話をするから、もう上がっていいよ。表に、クローズ出しておいて。」
「はい。かしこまりました。失礼いたします。」
「ご苦労だったね。」

その時、松本は気づいた。
振り上げた拳に向けられた怯えた瞳。
黒崎は尾上に似ている。
声も、長い指も、大きな二重の切れ長の目も……。

「話を聞いているかもしれないが、直は、相当なおばあちゃん子でね。ガキの頃から、ばあさんの喜んでいる顔が見たくて、菓子作りを始めたと言っていた。あんたは、どういった理由でパティシエに?」
「私ですか?そうですね。似たような理由かもしれません。両親が離婚して今は離れて暮らしていますが、弟の喜ぶ顔が見たくて菓子作りを始めました。不仲な両親の傍で、いつも二人で肩を寄せ合って暮らしていたんです。弟は母親の方に引き取られて、しばらく音信不通だったんですが、最近連絡を取りまして……ろくに学校へも行かずに悪い連中とつるんでいると母親に聞いて、会いに行きました。」
「そうか。兄貴の事が好きだったんだな。」
「心配だったんですが、今は三流大学ですが通ってます。フランスへ発つ前に、私もやっと兄らしいことができて、ほっとしています。」
「そうか。いい兄貴だな。」

視線を外すと、言いにくそうに黒崎は直の事を口にした。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

黒崎のケーキは、これまで松本が食べたこともないような繊細な味のようです。
松本と対峙した黒崎の思いは……?

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