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Café  アヴェク・トワへようこそ 16 

黒崎には、作り上げた自分の砂の楼閣が、波に浚われて消えてゆくのを、黙って見ていられなかったと言うことなのだろう。
誰かを犠牲にしてでも守りたいものがある気持ちはわからないでもないが、方法が間違っていると松本は吐き捨てた。

「それほど守りたい店なら、自分が死ぬほど努力しろって怒鳴りつけてやればよかったな。」
「おれもいけなかったのかもしれません。スランプに陥っている黒崎の目の前で、自分には作りたいケーキのデザインが溢れて来るんだって話を散々してしまったから……。もしかすると、あれが地雷だったかも。」
「安い自尊心だな。」

松本は相良に一つキスをして抱き上げると、もう一度寝台に横たえた。
この細い体に、それほどの過去があったとは想像もしなかった。
長い髪の理由は、目元がじんとするほど痛ましかった。

「いいか?直が悪い事なんて、これっぽっちもないぞ。考え違いするなよ?何度でも言ってやる。直は何も悪くない。おれが請け負ってやる。直はできるだけのことをしてきたんだ。直を傷つけたやつが悪いんだ。」
「店長……」

はらはらと涙が頬を伝ってゆく。

松本が、音を立てて何度も唇を落としてゆく。
長い前髪を指で梳いた。

「哀れな男だよな。直が妬ましくてたまらなかったってことだろ?おれにはパティシエの才能の有る無しはよく分からんが、直の作るケーキは、どれも旨かった。菓子作りってのは、結局はそこじゃないのか?黒崎にはケーキを食うやつの顔が、見えなかったんだな。」
「店長のそういうところ、おれ……ほんと好きです。おばあちゃんにおいしいって言われたくて、ホットケーキ作ってたの思い出します。」
「黒崎の才能ってのは、そこまで枯渇しているのか。」
「わかりません。おれから見れば、あの人は今でも、ものすごいパティシエだと思うし。おれの拙いルセットやデザインが黒崎の手にかかると驚くほどブラッシュアップされて、すごいものに変わってしまうんです。今の地位を失いたくなくて、おれなんかを利用してしまったんだろうけど……。おれには失うものがなかったから、きっと都合がよかったんです。」
「黒崎は、直がいなくなった後も、あちこち探していたんだろうなぁ。逃がした魚はデカいってことだな。」

相良は小さく頭を振って、わかりませんと繰り返した。

「黒崎の所から逃げた後は、どうしてたんだ?」

松本の店の求人を知る前には、仕事を転々としていたと話した。
何度も足を運ぶたび、不動産屋と顔見知りになり、格安で近々取り壊す予定の古いアパートを紹介してもらった。

「ラーメン屋とか、居酒屋とか、寮のあるところで働いていたんですけど、やっぱりパティシエの夢が捨てられなくて……。店の前の求人広告に釣られてしまいました。」
「運命だな、直。」
「はい。黒崎もこれで諦めてくれたらいいんですけど……」
「俺は、直を手放さないからな。黒崎がどんな手段を使うかわからないが、直はおれの傍にいろ。ぜってぇ守るから。」

相良は、くすんと鼻を鳴らして、松本を見上げた。

「おれ……黒崎に乱暴されてから、ずっとセクスが怖かったんです。もう誰も愛せなくなってるんじゃないかって思ってました。」
「ちゃんと勃ったじゃね~か。」
「あはは……はい。店長が愛してくれたから……良かった。」

頬を染めた相良をもう一度抱きしめて、松本は離さないと誓った。
もう誰にも、直を傷つけさせない。
必ず、守る。




本日もお読みいただきありがとうございます。

(*つ▽`)っ))) 「松本さん~、台詞がくさいよ~」
ヾ(。`Д´。)ノ 「やかましいわ~!ぼけ~!かす~!俺だってこのくらいの事は言うんだよっ。」
(*´▽`*) 「店長~♡」

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