FC2ブログ
FC2ブログ

Café  アヴェク・トワへようこそ 15 

誰にも相談できず、追い詰められていった相良が、逃亡するきっかけを得たのは、幸運にも黒崎が取材でいない間、カフェで働いているときだった。
客の広げた雑誌の「人気のカフェ特集」の文字に、ふと目が留まった。
そして、見開きのページに見覚えのあるスイーツを見つけた。

「あ……」

どきどきと鼓動が高なる。

「あの、お客様……それは……?」
「あ、これですか?ここのお店です。雑誌に載ってるのを見て、友達みんなで食べに来たんです。」
「ありがとうございます。見せてもらってもいいですか……?」
「どうぞ。黒崎シェフって、大人気なんですね~。あたしも予約してやっと今日、来れたんです。」
「そうですか。またお越しになってくださいね……。」

雑誌を返す手が震えるのが、自分でもわかった。
胸の奥にあった小さな自尊心が、熱をもって全身を駆け巡った。

「……おれの……だ。」

その客は、店のケーキを食べるために、わざわざ3時間もかけて店に来たと言う。
黒崎パティシエの作ったスイーツとして、見開きで載っていたのは、相良の考えたケーキだった。
相良の深いところで眠ってい何かが、胎動した。

デザインの見た目は少し違えてあるが、フルーツの素材を変えても、考えた相良には自分のものだとすぐ分かる。
ビターなチョコレートケーキの上に、大小の銀玉とシュガーレースで拵えた小さな王冠が載っている。相良が考えた恋人たちの特別な日のためのケーキがそこにあった。

厨房に駆け入り、ルセット(レシピ)を置く棚を探った。
普段、黒崎が店で作るケーキのルセットは、チーフシェフとパティシエの黒崎だけしか見られないよう、鍵のかかる引き出しの底に入っている。幸運にも、その日、鍵はかかっていなかった。
相良は引き出しの底に、子供のころから思いつくままファイルしてきた自分のルセットが、束で抜き取られて、隠されているのを見つけた。

「相良。何やってるんだ。黒崎さんがそこは誰にも触らせるなって……!あっ。」

思わずファイルを抱きしめた。

「このファイルに入っているルセットはおれの物です。今日の日替わりケーキも、おれが学生の時に考えたものです。どういうことですか……?ルセットを盗むなんて、まさかチーフが……?」

思わずチーフは顔をゆがめ、視線を逸らした。

「やったのは、俺じゃねぇよ……だけどケーキなんて、どれも似たようなものだろ?日の目を見たんだから、それだけでも感謝しろよ。」
「チーフは本気でそう思っているんですか?確かにおれの作った菓子なんて、素人に毛が生えたくらいのものです。店のは材料も最上級の高級品になっているし、デコレーションもセンス良く変えてあります。でも、それでもおれには、おれの物だと分かるんだ……。雑誌に載っているのは、おれのケーキです。」
「落ち着けって。な、俺がきちんとシェフに話をしてやるから。」
「もういいです……。やっと目が覚めた。ここにはおれが欲しいものは何一つない。今すぐ辞めます。お世話になりました。」
「待て!相良っ。黒崎さんに俺が叱られる。それに、次のケーキはどうするんだ。そのファイルがなかったら、店が立ち行かなくなる。お前がいないと、困るんだよ。」
「は……っ?」
「言うなって言われてるけど……スランプなんだよ。今、黒崎さんが作るものは、どれも過去に作った作品の二番煎じなんだ。誰かが気が付いて言い出す前に、何とかしなきゃならなかったんだ。おまえのケーキは粗削りだけど、プロの手で手直しすれば使えるんだ。俺が見ても、才能あるよ、おまえ。だから囲い込むような真似までしたんじゃないか……シェフのインスピレーションを引き出すのに、おまえが必要なんだよ。」

相良は思い出した。
就職がうまくいかないと相談した時、渡した自分のルセットを広げて黒崎はしばらくの間、眺めていた。
そして、話はとんとん拍子に進んだ。

*****

「渡りに船だったんでしょうね。」
「カモ……な。」

カモネギだったんだな……と言いかけて、松本は言葉を飲み込んだ。




本日もお読みいただきありがとうございます。
昨夜は、予約投稿に失敗して30分遅れてのアップとなりました。
覗いて下さった方、すみませぬ~(´・ω・`)

Σ( ̄口 ̄*) 「あっ。あがってないっ。」←よくあることです……←ダメなやーつ。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ





関連記事

0 Comments

Leave a comment