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終(つい)の花 東京編 23 

江藤新平率いる佐賀の乱が鎮圧されてから二年ほどの間に、西日本では多くの士族の反乱が続いた。
佐賀、熊本、福岡と鎮圧され、敗れて行き場を失った多くの士族は、故郷を捨て西郷のいる鹿児島へと集結する。
西南の役は、新政府に虐げられた武士達の、やり場のない最期の意地を西郷が受け止めて、仕方なく引き起こした内乱である。
実は西郷も、新政府の中で孤立していた。一度は政府の中枢にいた西郷は、盟友大久保利通と政治を巡って決裂し、夢半ばで鹿児島へ戻っていた。
政治の世界から離れ下野していた薩摩の西郷隆盛は、故郷で私学教育に力を尽くしていたが、頼ってきた士族の悲惨な窮状を見かねて、ついに決起する。
今や西郷隆盛だけが、旧士族の不満を受け止める理解者だった。

ここに、旧士族最大の内乱、西南の役が始まった。

*****

新政府は西郷軍のおよそ二倍以上の兵を送ることにし、川路大警視は陸軍に7千丁の小銃を依頼、陸軍士官の派遣を受けて征討に向かうべく大規模な軍事訓練を行った。
直正も一邏卒として、追加の軍人と共に後続部隊として薩摩に行くよう辞令を受けた。仕事としてはやりがいもあるが、帝都を離れることを、病の一衛に告げなければならなかった

「一衛。話がある。」
「なんですか?」
「うん。実は、近いうちに警視隊は薩摩に行くことが決まった。」
「……直さま……おめでとうございます。薩摩ですか……京よりも遠いのですね。」
「行ったこともない西国の果てだ。東京から船で乗り込むそうだよ。」
「一度に兵を運ぶには海路しかありませんね。陸路だと、あちこちで戦をしながら進まなければならないでしょうし……」

横になっている日が増えた一衛は、ほとんど奥まった角部屋で一人過ごしていた。
病のせいもあって、日向から食事が差し入れられるだけで、誰も部屋には近づかない。
誰かに翻弄されることもなく、静かな日々を送っていた。
島原屋の布団部屋にいるよりは、せめて空気の良い高地の療養所に移してはどうかと、医師からは再三すすめられたが、一衛は頑として頷かなかった。

「今更、どんな治療を施しても、一日二日寿命が延びるだけです。一衛は直さまと離れて数日生き延びるくらいなら、このまま少しでもお傍にいます。」

直正に異論はなかった。
白い肌は透けるように白くなり、網目をかけたように青紫の血管が身体中をいたわしく覆う。
げっそりと身が削げ落ち、眼窩は窪んで尚更目元を大きく見せていた。
誰の目にも死期が近いのは明らかだった。
直正は死病といわれる病に罹った一衛の住む隣に部屋をもらい、帰宅してからは甲斐甲斐しく世話を焼いた。体を拭き食事に気を配り、洗濯すらもこなした。
一衛のために襖を少し開けて、顔を見ながらできる限り話をした。

「薩摩は遠いし寂しいだろうが、勇猛な佐川さまもご一緒だから、すぐに片を付けて帰って来れると思う。待てるな?」
「あい……。でも、先に行かれた方たちは、どうなったのですか……?確か、前に600人もの方々が行かれたはず……」
「それがおかしな話なんだ。福岡での乱を制圧するために、陸軍士官の大隊が九州入りしたのだが、薩摩士族相手にかなわなかったらしい。わたしたちは、後方支援ということだったのだが、皆侍上がりで腕に覚えのあるものばかりだろう?それで、声がかかったというわけだ。」
「これまで数を頼みにして来たのに、此度はうまくいかなかったのですか?」
「戦場の経験の差ではないか?籠城の時も、これまで新政府は白兵戦というものをやってこなかっただろう?遠くからのドンパチは得意だが、いざ接近戦となると二倍の兵力をもってしても役に立たなかったというわけだ。小銃の性能が良くなかったのも原因らしい。一発撃つと、銃身が熱くなって冷めるのに時間がかかる。」
「ゲベール銃のようですね。でも、そんなこと……今頃わかったのですか……?戊辰の戦の繰り返しじゃありませんか。薩長が幕府を倒した後に、武士など無用だと言って散々に会津を苛めたんじゃありませんか。」
「そうだよ。それが警視隊には元士族が多く採用されているし、とうとう大警視が佐川さまに兵を率いて薩摩に行ってくれと頭を下げたそうだ。向こうでは、薩摩士族が山野に入り、背水の陣を構えて待っているから、政府軍は苦戦している。しかし一対一の斬り合いなら、鍛錬を重ねた会津武士は決して負けることはない。会津を後にして、早8年余りの年月が流れたが、やっと活躍の場を得た気がする。」
「……わたしも直さまと、ご一緒したかったなぁ……憎い薩摩兵をこの手で討ちたかった。でも、もう身体がききません……。」

一衛はすっかり細くなった指を広げた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)

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