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終(つい)の花 東京編 22 

警視庁は騒然としていた。
このころ、武士階級を廃止して特権を奪われた不平士族が、各地で反乱を起こしていた。
廃藩置県で家禄を奪われ、廃刀令で魂とも言える刀を奪われ、旧士族の不平不満は溜まりに溜まっていた。
西郷隆盛、江藤新平、板垣退助など、新政府と袂を分かつ維新の志士たちも出始め、旧士族に影響を与えた。
九州での暴動については直正も知っていたが、また新しく火種が起きたということだった。
全国に暴動が飛び火する前に、警視庁は組織を一つにまとめようとしている。
今のまま、まだ政治に慣れていない地方自治に任せていては、不平士族を鎮圧できそうになかった。

「慌ただしいな。何かあったのか?」
「あ、相馬さん。長州で反乱です。相原一誠という男が兵をあげたらしいですよ。」
「相原さんか。いつか話をしてみたいと思っていたのだが、叶わなくなったな。」
「相馬さんは、長州の相原を知っているのですか?」
「名前だけはな。実は帝都に流れてくる前、山川さまから何かあったら頼るようにと言われていた。長州の男に頭を下げる気はなかったから会わなかったが、暮らしの立ち行かない旧士族のために兵をあげたのなら、やはり山川さまがいうように、他藩にも侍はいたということだな。」
「へぇ。どんな人物なんですか?」

窪田は大いに興味を持ったらしい。

「秋月悌二朗さまとも、懇意にされていたらしい。会津が落城した折に、死力を尽くして戦った今後は倒幕派も佐幕派もない。新しい日本国のために手を取り合って頑張りましょうと、手紙を寄越したそうだ。」
「そうですか。ひとかどの人物だったのですね。しかし、士族のために立ち上がっても早晩討たれることになるでしょう。夕べ官軍だったものが、明日は逆賊というわけですか。長州もそう言った人材こそ大切にすべきなのでしょうが、政府への手前、涙をのんで断罪するしかないのでしょうね。」
「国を思う気持ちは、きっと誰も皆同じだよ。新しい政府を作ってみても、何もかも一度にうまくいくわけがない。立場が違えば方法が違うし、不満を言えばきりがない。会津も長州も同じように国を思っている人間は多いというのに、分かり合えないものだな。」
「でもね、相馬さん。例えどれほど相手に一部の理があっても、わたしは薩長とだけは分かり合うつもりは微塵もありませんよ。西から日が昇っても、雄鶏が卵を産んでも御免こうむります。斬れと言われれば、喜んで先陣を切りますよ。」
「わかっているさ。皆、内心は同じ気持ちだ。だが、九州でも随分きな臭いことになっているらしいし、新政府も一枚岩とはいかないらしいな。」
「お手並み拝見と参りましょう。ああ……、芋侍を早く征討したいなぁ。腕が鳴るなぁ。」

窪田は腰の物をすらりと抜くと、えいっと空を切った。
舞い降りた木の葉が、二つになって地に落ちたのを満足げに見やる。

「なまってはいないな。」
「無論です。」

国を遠く離れていても、会津武士の誇りは、未だ常に彼らの心の内にあった。

******

「皆、集まっているか!」

大声を上げたのは、元会津藩家老、佐川官兵衛だった。

「佐川さま!」
「ご家老さま!」
「おい。いくらなんでも御家老さまはまずいだろう。」
「……あ。そうだった。佐川大警部補殿とお呼びせねば。」

窪田は頭を掻いた。
新政府に請われ、警視庁に入った佐川官兵衛は、この後、西南の役で目覚ましい活躍をした後、壮絶な最期を迎えることになる。
懐かしい会津時代に比べて、従うものは減ってしまったが、それでも配下で共に働けるのがうれしい。
周囲に居るもの達も又、武士としてしか生きられない不器用な男達ばかりで、佐川もまたかつての戦友たちを見つめて感慨深げだった。
新政府に不満を持つ士族たちは、次々、蜂起していたがいずれも、数を頼みにした新政府に鎮圧されている。
しかし不満は、消えることなく熾火のようにくすぶり続けた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)
直正は警視庁の警視隊に入ります。

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