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終(つい)の花 東京編 13 

容保公は、緋毛氈の上に頭を下げて血涙をこぼした。
それを思えば、自分も耐えられる……そう思っていたのに、下を向けば無意識に頬が濡れる。
一衛の病状を心配しながら、足を棒にして毎日職探しに励む直正を、楼主と共に騙し裏切っているようで辛かった。
手のひらのあれほど硬かった竹刀だこも、すっかり柔らかくなって一衛を悲しくさせた。

「さあ、一衛さま。御辛くないように、この嶋原屋が、後孔を程よく弛めて進ぜましょう。」
「……わたしに、触るなっ……ああっ」

簡単にうつぶせにされ、身の削げた尻を割られた。
黄金色の菜種油が、たらたらと垂らされ最奥へと送られてゆく。
忍び込む温い油の感触に、一衛は眩暈し怯えた。

「初花を頂いたときはつつましいご様子でしたのに。さすがにここに何回も咥えるうちに、柔らかくほぐれましたな。閉じぬように栓をかってあげましょう。」
「いやだ……いや……」
「抗う様子も、お可愛らしい……」

顔をそむけた一衛の上に、言葉で嬲りながら嶋原屋がのしかかり、裏から膝を割った。手に持った紅い紐の先には、小さな鈴が付いていて、ちりんと可愛らしい音がする。

「苛めるようで、日向もつらいのですよ。でも、こうしておかなければ、一衛さまがお辛い思いをすることになりますからね。すぐに化粧師(けわいし)が参りますから、このままお待ちください。焦れても、決して御自分の手で触れてはいけませんよ。」

双果実の付け根を、鈴の付いた細い紐で結わえて、日向はゆるゆると白い茎を嬲った。
一衛の精は薄いから、こうして溜めておくのだという。
一衛の腰が揺れ、朱鷺色に染まった鈴口が滲むように露を抱くのを、日向は満足げに眺めた。
平織の紐で揃えた足を緩く戒められた一衛は、そのまま無造作に羽二重に転がされた。

見上げた窓に四角に切り取られた窓が見える。
愛する故郷に続く高い空を掴もうとして、伸ばした腕は失墜するように力なく落ちた。

******

嶋原屋に病の一衛を預けた直正は、日向に紹介された新政府の役人を訪ねていた。
役人によると、国内の治安維持回復のため、新しくできる東京警視庁という部署が、身分、思想、出身地を問わず、広く全国から元士族を募集するという。
邏卒の責任者は、薩摩出身の川路という男で、邏卒(後の警官)には有能な武士を用いるべきというのが持論で、内務省には職を求めて巷にあふれている旧士族が訪ねて来ていた。
元会津藩家老、勇猛で知られる佐川官兵衛等、多くの有名な会津藩士、元新選組隊士も求められて新政府に召し抱えられることになる。

邏卒募集の話を聞きに行った直正は、たまたま窪田という元会津藩士に会った。
直正は戊辰の戦の一本槍として命を落とした、窪田の父親をよく知っていた。

「窪田くんじゃないか?」
「相馬さん!お久しぶりです。お懐かしい。」
「元気そうだ。君も邏卒に応募するのか?」
「はい。剣技が生かせるというので、仲間が共にいかないかと声をかけてくれました。」
「刀も無暗に振れないご時世になったからな。禄もない士族には肩身が狭いな。」
「まったく生きにくい時代です。でもわたしも、剣術にはいささか自信がありますから、仕事にできるならありがたいです。」
「そうだな。」

窪田は、一衛よりも二つか三つ年上で、白虎隊一番隊に入っていた。
生き残りの白虎隊士は合同隊を作り籠城して戦った。
負けん気の強そうなその顔に見覚えがあった。

「君とは、猪苗代の謹慎所が最後かな。わたしは抜け出してすぐに江戸を目指したから、ほかの方々の様子がわからなかったんだ。最近になって、ようやく明るい話も聞くようになったよ。」
「わたしや元白虎隊の面々は、東京に送られてから許されたので、一先ず転封先の斗南に行きました。親族を頼り向こうに住むつもりだったのですが、暮らしが立ち行かず東京に舞い戻りました。」
「話には聞いている。斗南はひどい有様だったそうじゃないか。」
「ええ、あの地はこの世の地獄でした。わたしが訪ねた時には、祖父と妹が飢えて亡くなくなっていました。」
「そうか。お気の毒に。」
「廃藩置県以降は、どこの地へ行ってもよいことになりましたから、会津に舞い戻った者も多くいます。そういえば、いつも一緒にいた濱田さんはお元気ですか?今も一緒じゃないんですか?」
「一衛には苦労をさせてしまったよ。今は落ち着いているが、胸の病でな……寝付く日も多い。」
「そうですか。でも、相馬さんが傍にいるなら心強いでしょう。」
「そうだろうか。いつかは会津に連れて帰りたいと思っているのだが……。日々の暮らしで精いっぱいでままならないことが多いよ。」
「会津に帰りたいのは皆、同じですよ。でも、故郷は今も荒廃したままです。寺のご住職が見かねて埋葬して下さった藩士の墓さえ、小役人が暴きましたから。」
「……会津は、いまだにそんな有様なのか。一衛の祖父と母は、城へは入らず家に残って自害したんだ。何とか奇特な人の手で荼毘に付されればいいと願っていたが……その分だと城下もどうなっているかわからないな。」
「ええ。しかも落城以来、百姓一揆がずっと続いているそうです。百姓も我慢の限界に来たということなんでしょう。」
「そうか。会津の者は藩士だけでなく百姓も苦労しているのだな……」

ふと、名主の清助の顔を思い出す。清助のおかげで、ここにこうしている。

「元通りの会津に戻るのは、いつだろうな。」
「本当に……」

猪苗代から移動する道中、往来で腐敗する父親の傍で子供が飢えて死に、その子供の骸が野犬の餌になるのを見てきたと、顔色も変えずに窪田は語った。




本日もお読みいただきありがとうございます。
ヾ(。`Д´。)ノ「こら~~!此花~!一衛に何してくれとんじゃ~!」

一衛の受難の日々は、少しばかり続きそうですが、直正はちゃんとした職に就けそうです。
いつか二人が幸せになれるといいな……と思いながら書き進めています。(`・ω・´)←ほんとよ。

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