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終(つい)の花 東京編 7 

廓の外の大通りは、花魁道中の見物人も溢れて大騒動になっていた。
棒振りの牛太郎(自警団)が数人追いかけて、足抜け女郎を散々に打ちのめした後、肩に担いで娼館に戻ってくる。

「おらっ、じっとしねぇか。」
「このあま、せっかくの拵えが、水の泡だ。せっかくの水揚げだってのに、土壇場で逃げ出すとはふてぇあまだ。」
「花魁道中だってのに、なんてざまだ。」
「ぃやんだぁーー!」
「二度と足抜けなんぞできねぇように、きっちり身体に言って聞かせてくれるからな。」
「来い。」
「やんだぁーー。 やめてくだっしょ。」

涙にぬれた頬をこわばらせ、必死に叫ぶ。
一衛と視線が絡んだ気がした。

「兄(あ)にゃさん。助けてくだっしょ!ここんどこにいるのはやんだぁー。身を売りたくありゃしにぇー。おっ母つぁまーー!……」
「やかましいっ。静かにしねぇか。」

聞き覚えのある訛りを耳にし、一衛は何も考えず追手の前に立ちはだかっていた。

「下郎っ。その娘を離せ!」
「なっ、なんだ、てめぇは!」

いかつい棒振りの牛太郎も、きちんと基礎から学んだ武道には敵わない。
相手が打ち込んできた棒を奪うと、一衛はその場にしたたかに一薙ぎで打ち据えた。

「このガキっ!」
「くっそ……見かけに騙されるなよ。こいつ、使えるぞ。」

這いつくばった男たちは、懐から短い脇差を取り出した。
白木の鞘を放り投げて白刃を閃かせ、荒くれが一斉に一衛を襲う。
面倒な刃傷事に巻き込まれてはたまらないと、見物客は逃げ出した。
一本の棒を刀代わりに、下段の構えから最初の男の刃物を撥ね飛ばした一衛が、少女を背にして肩で息をつく。
体力の落ちていた一衛の息は、とうに上がっていた。

「構えねぇ!今のうちに、やっちまえ!」

大した実力ではないと対峙すればわかる。
大きな構えは隙だらけだ。
だが、この先のことを考えていなかった。

娼館から逃げ出すのは、おそらくこの少女に非がある。
そのくらいのことは、世間知らずの一衛にもわかる。
その上で追手の邪魔をしたからには、一衛もただでは済まないだろう。
日向に迷惑をかけるかもしれない。
困ったことになったと、内心で悔いた。
相手は刃物を閃かせ、数人がかりで一衛と少女を取り囲んだ。
じりじりと、囲みの輪が狭くなってゆく。

「構うことはねぇ。こいつぁ、足抜けの手先だ。」
「たたんじまえっ!」
「どこの陰間かしらねぇが、いい男ぶるのも大概にしなよ。」
「花魁道中のだってのによ。」
「その小奇麗な面を、なますに刻んでやらぁ。」

こみあげて来る咳をこらえ、再び正眼に構えた時、短い叱咤が飛んだ。

「お前たち、おやめ!」
「あ……旦那。止めないでおくんなせぃ。こいつは染華の足抜けに、手を貸しやがったんですぜ。」
「花魁道中だってのに、台無しにされていいんですかい?」
「いいから。物騒なものをひけらかすんじゃないよ。そちらはうちの大事な客人だよ。傷なんぞつけたら、ただではおかないからね。」
「へいっ。」
「ま、旦那がそうおっしゃるんなら。」

不服そうに顔を見合わせて、男たちは引き下がった。
本日、初店の振袖新造は、その場でえぐえぐと泣きじゃくっていた。
刺繍の豪華な俎板帯も土にまみれ、兵庫の髪も崩れている。
一衛は手にした天秤棒を、男たちに戻すと困りきった顔を向けた。

「日向さん……申し訳ありません。どうやら、わたしは余計なことをしてしまったようです。」
「いいんですよ。廓ではこういうこともあると、お耳に入れておかなかったわたしが悪いんです。それにしても大したお方だ。ああ見えても、うちの抱えの牛太郎達は、腕自慢で剣術の道場でも目録を頂いているんですがね……おっと。」

突然、視界がぼやけて、一衛はその場に昏倒した。




本日もお読みいただきありがとうございます。(´・ω・`)
武士としての正義感があるばっかりに、やっちゃったね~……一衛たん。
(´;ω;`) 「だって……国の言葉が聞こえたから……」

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