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終(つい)の花 68 

降伏式の後、容保は城内に戻り、遺体の投げ込まれた空井戸の前に花を捧げて冥福を祈っている。
生き残った藩士は、涙にくれながら去りゆく城主の背中を見つめていた。
直正の父は白河で行方不明となり、母も長刀をふるって娘子隊とともに入城したのち、城内で砲弾に吹き飛ばされ井戸で眠る。
腐臭の漂う城内で、重臣、藩士たちと別れを告げた容保は、謹慎所となる寺へ向かった。

籠城したものは、女性子供も含めて、実に4956人を数えた。
城内にいる16歳以上の藩士は謹慎所へと向かう。
一衛は16歳になっていたが、小柄なせいもあって、直正が新政府軍にこの子は自分の末弟で13歳だと申告したらあっさり認められた。
会津が降伏した今、子供一人の年齢などとるに足らないと考えたのかもしれない。
一衛は驚いて直正を振り返ったが、こちらは素知らぬ顔をしている。
直正と一衛は打ち合わせたとおり、役人が寝静まった頃、猪苗代の謹慎所の裏口で密かに落ち合い抜け出した。
夜陰に紛れて峠を越えるつもりだった。
籠城する前、役に立つこともあろうかと、直正は、国境の炭焼き小屋にわずかな路銀と偽造した手形などを隠してあった。

「急ごう。おいで。」
「あい。」

月明かりの夜道を、手をつないで二人は急ぐ。
道行のようだと、直正は思った。
天にも地にもただ一人残った身内の一衛だけは、どんなことがあっても守ろうと心に決めている。

「山道はきついが、大丈夫か?」
「直さまとご一緒ですから、平気です。」

江戸に向かう街道には、夜も役人が張り込んでいると聞き、裏道を探った。
夜中だというのに、国境には会津藩士が逃亡するのを阻止するべく、煌々と篝火が焚かれている。

「困ったな……ここにも新政府軍の見張りがいるようだ。」
「あれは、新政府軍の役人ですか?」
「そうだと思う。味方とは限らないから気を付けろよ。わたしが話をするから、一衛は黙っておいで。」
「あい……。」
「もし名乗った藩の藩士がいたなら、強行突破するからな。いざとなったら切り抜ける。そのつもりでいるんだよ。」

直正と一衛に気付いた数人が、一斉に走り寄り刀を突きつけた。

「不審なやつ。国抜けする会津藩士か?」
「直さま……っ。」
「違う。われらは新政府軍に同道した佐竹義理さまの家中でござる。怪しいものではない。」
「その方が秋田藩士だと?確かか?」
「さよう。会津が降伏したので、弟を連れて久保田に帰参するところだ。」
「名は?」
「佐々木直正。これなるは某の末弟で一衛と申す。」
「秋田藩士なら、当方が留め立てすることはないが……会津藩士の国抜けが多いので、関を設けているのだ。無礼を承知で、面通しをさせていただこう。」
「面通し?」

知り合いのいない秋田藩士に、佐々木直正という藩士はおらぬと断言されてはまずい。
直正は内心焦った。

「降伏の様子を一早く殿にお知らせするようにと、上役から承ってきたのだ。早く帰らねば、面目が立ち申さぬ。」
「では、使いをやって存じ寄りの秋田藩の方を連れて参る。近くの関におられるから、半時もお待ちいただけばよい。それでよろしいか、佐々木殿。」
「む……貴殿もお役目ならば、致し方あるまい。」

かくなる上は、抜刀もやむなしと直正が柄に手を掛けたとき、奥から辺りの村名主が顔を出した。
話を聞いていたらしい。

「おや……何やら騒がしいと思いましたら、佐々木さまではございませんか。このような遅くに久保田の殿さまのお役目ですか。ご苦労なことです。」
「名主。その方は、こちらの御仁を見知っておるのか?」
「はい。よく存じております。わたくしの恩人でございますよ。」

一衛は思わず、あっと声をあげそうになった。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)
まるで道行のように、故郷を捨てる二人の行く手に、新政府軍の追手が立ちはだかります。
出てきた人はいったい、誰なのでしょうか……

*****
会津から江戸に向かってからは、終の花(東京編)としたいと思っています。
第二部になります。
推敲が間に合わなくて、少しお休みするかもしれません。
また、お知らせいたします。よろしくお願いいたします。(〃゚∇゚〃)    此花咲耶

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