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終(つい)の花 63 

合流した直正と、鉄砲隊の残りの兵も農民の姿に変装し、越後獅子の後ろについて入城していた。

「……直さま!ああ、よかった……御無事だったのですね!」
「見ていたか?一衛。山川さまの奇策は、痛快だっただろう?」
「あい。お見事でございました。それに何より、獅子行列は楽しかった。」

被り物をとると、藩士たちは大いに笑った。
悲惨な話が多い籠城の中で、唯一の痛快な実話である。
後に、山川大蔵の入城を手助けした彼岸獅子は、容保より松平家の家紋を使用することを認められて今に至っている。

*****

瓦礫だらけの城の中は、今だけは静かだ。
日々、新政府軍への夜襲が繰り返されているが、山川が入城した今夜は取りやめて、軍議を行うことになっている。
直正と、一衛は久しぶりに二人きりで話をした。

「直さまは、ずっと山川さまの部隊だったのですか?」
「いや、別働隊だ。わたしは16橋を落としに行ったのだが、間に合わなくて引き返したんだ。あそこは会津に入るには、敵も味方も必ず通るから落とすことになったんだが上手くいかなかったんだ。」
「橋が頑丈すぎてどうにもならなかったと、お味方が言っているのを聞きました。」
「落とすのに火薬が足りなくて、諦めるしかなかった。途中で、日光口の山川さまの軍に合流しろとの命を受けて、城下付近まで来たのだが、既に新政府軍が取り囲んでいて、入城できぬまま気をもんでいたのだ。山川さまが、いい案を思いついたから、待っていろとおっしゃって、出かけてしばらくすると、近くの村の彼岸獅子を連れて帰ってきたんだ。さすがは知恵ものの山川さまだろう?」
「あい。こんな手があるとは思いませんでした。」
「一衛が無事で良かった。」

直正は煤で汚れた一衛のほほに触れた。

「籠城は大変だったろう?痩せたな。」
「一衛は最初、お城の中で直さまを探したのですが、姿が見えなかったので途方にくれました。でも、仲間が一緒だったので、いろいろと皆さまのお手伝いをしています。」
「そうか。幼年組の皆で頑張ったのだな?そうだ。ほかの者も、鉄砲を使えるか?」
「あい。」
「よし。では、みなで揃って夜襲と行こうか。」

ぱっと、一衛の顔が明るくなる。

「一衛も直さまと共に戦えるのですか?」
「鉄砲隊もほとんど戦死して、すでに小隊も組めない有様だから、新しく鉄砲隊を編成しようか。」
「えっ!?」
「なに、案ずることはない。他の者よりも、一衛は鉄砲に慣れているだろう。それより、皆の腕前を見せてもらおうかな。」
「あい。すぐに声をかけてまいります。直さまに頂いたこの銃が、飾りではないことをお見せします。」

走り去る一衛の背中で揺れる銃は、よく手入れされているようだ。
おそらくこれが最後の攻撃になるだろうと、直正は思っていた。
山川は、これ以上の戦いはやめるべきだと言っていた。おそらく今宵の軍議で、停戦の話になるだろう。
本当ならば、籠城前に元服を済ませ初陣の支度を整えてやりたかったが、戦の慌ただしさの中で何もしてやれなかった。
緊急招集だったために、一衛の名前も名簿にあるかどうかすらわからない。
あれほどお任せくださいと、叔父の仏前で固く誓っておきながら、約束を守れない自分の不甲斐なさが情けなかった。
せめて自分のそばで、間もなく終わる戦に参加させてやろうと直正は考えた。

一衛の銃は、直正が京都で苦労して手に入れた中古のミニエー銃で、薩摩藩の備えの大方は、この銃だといわれている。
弾の装填が簡易で、一衛にも扱いやすかった。
しかし、矢場で数度、試し打ちをしたくらいで、実戦で使ったことはない。弾丸の数も限られていたからだ。

「直さま。皆を連れてまいりました。」

一衛の朋輩たちは夜襲に参加できると聞き、胸を躍らせてやってきた。

「いいか?これがお前たちの初陣だ。思い切り戦え。」
「はいっ!」
「はいっ。」

いくつもの声が重なった。

「ここから、追手門の前の敵方の陣が見えるだろう?こちらの銃はそこまで届かないと侮っているから、一泡吹かせてやろう。弾を込めたら人影を狙って撃つ。城門の前は、狭間から狙えばぎりぎり弾が届くはずだ。狙えるか?」
「あい。」
「日が暮れると、こちらも手元が見えにくくなる。鳥目の者はいないか?」

こくりと少年たちはうなずきあった。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)

苦しい籠城の中で、直正は一衛に初陣をさせてやろうと思いつきました。
ヾ(o´∀`o)ノ♪「がんばります~」
これまで銃の練習を続けてきた一衛と、友人たち。
鶴ヶ城の最後の時が近づいてきます。 此花咲耶

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