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終(つい)の花 61 

城内に入った一衛は、まず直正を捜したが、城外で戦っているのか姿は見えなかった。
「直さまは、どこかにおいでになるのだろうか。それとも、城外で戦っているのだろうか……」

どこもかしこも人でごったがえして、何をしていいか分からない。不安だけが押し寄せてくる。
城を包囲した新政府軍の攻撃は休むことなく、頭上からばらばらと瓦が落ちてきた。

「一衛!」
「あっ、みんな!」
「良かった。皆を捜していたんだ。一衛は一人か?母上とお爺さまは?」
「家だ。別れは済ませて来た。」
「そうか……わたしの家も、わたしだけが城に入って、弟たちと母上は家に残っているんだ。父上は西郷さまの配下だから、白河口にいるのではないかと思うけど……」
「ここにいれば会えるかもしれないな。さあ、わたしたちはわたしたちのできる事をしよう。」
「うん。15歳以上は軍に配置されるかもしれないのだろう。いよいよ、初陣かな……あっ。」

そう言って立ち上がった一衛たちの目に飛び込んできたのは、各戦場から退却してきた驚くほどの数の傷病兵だった。
皆、ひどい傷を負い、野戦病院に入るなり力尽きるものも多い。
女達はてきぱきと傷の手当てをし、食事の支度にとりかかっている。
城の中では、男たちだけではなく女たちも共に懸命に戦っていた。

*****

「幼少組の方々のお手伝いか。これはありがたい。」
「あい。何でもお申し付けください。配属されるまで、懸命に働きまする。」

一衛達の学んだ日新館が、野戦病院になっていた。
病人用の布団が足りないため、奥向きから運んできた色とりどりの華やかな打掛を敷布団にして、傷ついた藩士がそこかしこに転がっている。
不思議な光景だった。

「先生。わたしたちが怪我人の傷を洗います。井戸の水は使えますか。」
「幸い、水だけは大丈夫だ。とりあえず傷口が化膿しないように、血を洗ったら焼酎をかけてくれ。包帯は使用済みのものを洗って再び使う。こちらの籠にあるものは、巻いてくれ。汚れたものと一緒にするなよ。膿むからな。」
「あい。」

幼少組といえども、一衛達は普段簡単な傷の手当てなどには慣れているため、役にたった。
ただ、負け戦が続くにつれて、素人には手におえない重傷者が増えてくる。
砲撃によって腕を飛ばされた者、足を失ったもの、薬は足りず、医師も少ない。止血し傷を焼酎で洗うのが精一杯の手当てだった。

アームストロング砲という、新政府の武器の破壊力はすさまじく、射程距離も遠くを狙えるために一日二千発以上の砲弾が飛んできた。
運ばれてきた者も、手当の施しようがなくすぐにこと切れるものも多い。
一衛達は仮ごしらえの担架を作り、城内にある空井戸に運んだ。
砲弾は容赦なく打ち込まれ、ひっきりなしに瓦が落ちてくる。
一衛達も舞う土埃で汚れた。
城の中に、安全な場所はどこにもなかった。

「まるで遺体を埋葬するために籠城してきた気がするな……」
「そんなことを言うな。今は藩の一大事だ。」
「皆、藩のために戦った方達なのだから、丁重に扱わねば。」
「そうだな。経を読める者はいるか?」

空井戸に亡骸を投げ込み、手を合わせた。
たちまち、井戸は遺骸でいっぱいになり、二つの井戸にはむしろが掛けられた。
弔いもまともにできない戦いに、次第に疲れが溜まり口数は減り虚しさだけが広がってゆく。
誰も口にはしなかったが、とても勝てる戦だとは思えなかった。
どんどんと山の向こうから城へ向かって大砲が打ち込まれ、羽根を広げた鶴のようとも言われた美しい城は、破風が崩れ見るも無残な姿になった。
見上げるたび、悲しくなる。

地響きを立てて砲弾が落ちるたび、味方は傷つき血が流れた。
皆、憔悴しきっていた。

「殿だ!」

城内を鼓舞して回る容保の姿に、一衛も駆け寄り頭を下げた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)
会津城に向けて撃たれたアームストロング砲の弾数は、一日二千発以上だったそうです。
新政府軍も、なかなか降伏しない会津に向かって意地になっていたのでしょうか。
大人げなくね……?(´・ω・`)……とか思ってしまいます。
籠城は大変そうです……   此花咲耶

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