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終(つい)の花 59 

9月。
新政府軍は諸藩を巻き込んで、恐ろしい数の大軍となり、笛や太鼓を打ち鳴らしながら錦旗を押し立てて会津城下に迫っていた。
新政府に抗する浪人や脱藩者も続々と会津に行き場を求めて入って来る。
槍を抱えた武士が勇ましく名乗り、自信ありげに胸を叩く度、直正は密かに食い扶持だけが増えてゆくのは困るんだが……とため息をついた。
彼らが役に立つとはとても思えない。
数だけを頼みにした闘うすべも知らない烏合の衆が、あっさりと手のひらを返し裏切るのを会津兵は京の町で嫌になるほど見てきた。
それでも兵力が決定的に劣る会津は、流れてきた彼らの力を頼るしかない。会津には兵も武器も金も何もかもが足りなかった。
王城の地での散財が痛かった。

上野では彰義隊が全滅した。
新政府は最新兵器を用い、まるで赤子の手をひねるように幕府軍を翻弄してゆく。
圧倒的な火力を前に、袋のねずみとなった会津はなすすべもなかった。
武家の意地も矜持も、新しい兵器の前に屈した。

母成峠が突破されたのち、西郷頼母が指揮を執った最後の砦、白河城も必死の抵抗もむなしく、敵の手に落ちた。
白河だけは敵の手に渡してはならないと、本陣の容保は檄を飛ばし、多くの戦力を注いだが、一度敗戦してしまえば、そこからはまるで坂道を転がり落ちるようだった。
会津はあちこちで新政府軍を止められなかった。

元々、長く戦列を離れていた西郷には、指揮は不向きだったのかもしれない。
西郷頼母は決死の覚悟で単騎、敵陣に打って出ようとしたが周囲はこれを止めている。
指揮に慣れていない西郷頼母を選んだ、容保の人選が適切ではなかったと言えるかもしれない。
鳥羽伏見の戦で古い戦の方法が役に立たないとわかっていながら、何故指揮官を頭の固い西郷にしたか。
何故、京都で結果を出した若い山川大蔵を呼び戻し、抜擢しなかったのか。
そこにはやはり、旧態然とした会津の考え方があった。
会津の上層部はまだ古い考えに縛られていて、若手の登用に積極的ではなかったといえる。
その上、会津に入るには必ず通らなければならない橋を落とそうとしたが、新政府軍の進軍が早すぎて破壊が間に合わなかった。石橋の頑丈さが仇となった。

直正は手勢を率いて、白河へ入ろうとしたが既に陥落した後だった。

「白河が落ちたか……」

本陣から城へ戻ってきた容保は、報告を聞くと、ぎり……と、唇をかんだ。
斥候が伝えて来るのは、各地での敗戦ばかりだ。
白皙の貴公子は疲れ果てていた。

*****

ついに新政府軍が迫り、城下では火急を告げる早鐘が激しく打ち鳴らされた。
城下は、荷物をもって城へ集まる人々でごった返していた。

「半鐘がなっています。母上。早くお城に行きましょう。直さまが早鐘が鳴ったら急ぎなさいとおっしゃったのです。お爺さまは、一衛が背負いますから、お支度をお願いします。」

いつも通り、寝たきりの舅に粥を炊く母の背に、一衛は声を掛けた。
大八車を手配したかったが、どこも他所に貸し出すほどの台数はなく用意できなかった。一衛は本気で祖父を背負って城へ入る気だった。

「あの……母上、どうかされたのですか?」

落ち着いた母が、何故か急いでいないのが不安だった。

「お急ぎ下さい。、時間が来たら城門が閉まってしまいます。」

母は、しゅっと襷をほどいた。

「一衛。あなたは一人でお行きなさい。母はお爺さまと、この家に残ります。あなたはお城に入り、しっかりと父上の分も戦うのですよ。よろしいですね。」
「え……でも……上士の家の者は皆、お城へ入るようにと言われています……。」
「何をうろたえているのですか。こちらにいらっしゃい。お爺さまにお別れのご挨拶をするのですよ。」
「……あい。」

半身不随の祖父は、畳んだ布団に身を預け足を投げ出していたものの、きちんと白装束を身に着け綺麗に髭もあたっていた。老身の身でありながら、武士らしくすでに覚悟はできていた。
前に置かれた箱膳の上には、栗と豆と胡桃と松の葉を並べた杯に酒が注がれたものがあった。
ゆっくりと動く片方の手が上がり、ぎこちなく一衛を手招きする。

「か……ず。」

聞き取れない言葉ではあったが、何を言おうとしているか一衛は理解した。
戦にでる前の儀式ともいえる、古くから伝わる武家のまじないだった。
栗は勝ち栗、戦に勝つことを意味する。

『戦に勝ちて、まめに(豆)に、戻って来る御身(胡桃)を待つ(松)』

「お爺様にご挨拶をしてからいただきなさい。一衛。」

一衛には祖父の死に装束の意味が分かった。母は、自分を送り出した後、体の不自由な祖父を介錯するつもりなのだろう。
そして、おそらくは後を追って、自分も自害するつもりなのだ。
母と祖父の覚悟を知った一衛の瞼が、じんと熱くなる。



本日もお読みいただきありがとうございます。(´・ω・`)
とうとうこの日がやってきてしまいました。一衛は、祖父と母上と永のお別れをします。
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「お爺さま……母上……」「きちんとお爺さまにご挨拶するのですよ。」

拍手も、ぽちもありがとうございます。励みになってます。
明日もお付き合いくださるとうれしいです。  此花咲耶

一気読みをして、たくさんの拍手をくださった方。ありがとうございます。とてもうれしかったです。(〃゚∇゚〃)

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2 Comments

此花咲耶  

千菊丸 さま

お城には直さまがいると思っている一衛。
(´;ω;`)「直さま……」
一衛は武家の子供ですから、きっと命を賭して戦う気でいます。
でも、一衛はほんの少し年齢が足りなくて、白虎隊に入れませんでした。(´・ω・`)
(*つ▽`)っ)))「それにちびだし~」

コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

2015/05/30 (Sat) 20:39 | REPLY |   

千菊丸  

お久しぶりです。

母と祖父の覚悟を知った一衛。
肉親との最期の別れを済ませた彼は、戦うことが出来るのでしょうか?

2015/05/30 (Sat) 14:58 | EDIT | REPLY |   

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