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終(つい)の花 48 

味方だと思っていた淀藩、津藩、彦根藩に裏切られ、兵糧の補給も傷病兵の搬送もままならないまま、ほうほうの体でやっと大阪城にたどり着いた会津兵だった。

「なぜだ!?なぜ殿の御姿が無いのだ?」
「殿はどこへ行かれた?」
「殿―――っ!」

藩士たちは、容保を求めて大阪城内を彷徨した。
傍に居るはずの若い家老の姿もそこにはなく、藩士達は狼狽した。
実のところ、若い家老は容保の姿が消えたのに驚き、探索に出ていたのだが、藩士たちは慶喜と図り容保を逃がしたと誤解した。
広い大阪城の内部は、傷病兵たちの血のにおいで充満していた。
結束の会津兵の心に微かな亀裂が生まれた。

「まさか……殿が京都で戦う我らを置いていかれた……?慶喜公と神保修理が殿を江戸へお連れしたのか……?」
「馬鹿な!滅多な事を言うな。我らが殿に限って、左様なことが有るものか。徳川さまも、最期の一兵になっても奸賊を撃つと、数日前に檄を飛ばされたばかりではないか。」
「だが……あの二心公に、殿がこれまでどれ程の煮え湯を飲まされてきたか、貴公とて忘れたわけではあるまい?局面ごとに幾度も考えを変えて来たではないか。再びの心変わりは考えられないこともない。」
「それはそうだが……殿に限っては、我らを裏切るような真似をするはずもない。」
「では、殿の御姿が、ここに無いのはどういうことだ。神保は?また、徳川宗家の口車に乗せられたのではないか?」
「……それは、わからぬが……。」

もしも、このまま会津が逆賊となり大阪城からも退去するようなことになれば……藩士たちの胸に去来したのは朝敵の汚名を着せられることだった。
考えたくもないことだが、強硬な佐幕派として先頭を走ってきた会津藩の立場は難しいものになる。
これまで長州藩や不逞浪士に対して京都守護職として容赦ない制裁を加えて来た。
お役目一途に努めてこその行いではあったが、会津憎しの声は、藩士の耳にも届いている。
江戸でもう一度、兵を建て直してからの戦になるかもしれないが、そうすると会津に勝ち目はあるのだろうか。
錦の御旗が翻ったたった一日で、多くの藩が討幕派へ寝返ったのを戦場で見て来た。

「会津は幕府を支えるために、敵を作りすぎたのかもしれぬ……」

誰かが苦々しげに口にした。
新式銃に半身をもぎ取られて絶命した一衛の父の姿が浮かぶ。
刀槍の腕を磨き、鍛練を重ねてきた藩内随一の手練れの叔父さえ、敵と刀を合わせることなく無念の死を遂げた。
もしも戦に負けるようなことが有れば、会津からはるばる京まで来た叔父の死は無意味なものになってしまうのだろうか。
そこかしこで繰り広げられる会話を、直正だけはうわの空で聞いていた。
懐の形見を握り締めた直正は、「違う……」と口にした。

「そねぇなことがあるわけもねぇ。叔父上が守ろうとしたのは会津だ。懐かしい故郷だ。故郷に住む愛おしい者達だ。わだすが護ろうとしている物も同じものだ。」

そうだろう、一衛?と心で問うてみる。

『あい。直さま。』

「済まぬ。叔父上を御止めできなかった……わたしのせいだ。」

懐で見上げる幻の一衛が、悲しげに見つめる。

「一衛に貰った諏訪神社のお守りも、役に立たなかったな……」

『直さまのせいではありませぬ。』

あの子は泣くのを我慢して、気丈に言うだろう。

『父上は武士の本懐を遂げられたのです。直さまがご無事で良かった。』

「すまぬ。一衛……一衛があれほど会いたがっていた父上に、もう会わせてやれぬ。」

直正の頬に、清らかな粒が転がって落ちた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
叔父上を失って、疲れ果てた身体で大阪城に辿り着いた直正です。
抑えていた悲しみがあふれてきます……(´;ω;`) 此花咲耶

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