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終(つい)の花 47 

直正はぎり……と、唇をかんだ。

「叔父上……」

北辰一刀流免許皆伝の叔父でさえ、足軽の持つ新式銃に歯が立たない。
直正は鉄砲隊を率いる身でありながら、改めて現実の惨さに打ちのめされていた。
もっと早く、新式銃を鉄砲隊の人数ほど手に入れて居たら……。

直正は叔父の髪を一房切り取ると、引きちぎった片袖で預かった櫛と共に包み、懐にねじ込むと形見とした。
せめて手を組ませ目を閉じてやりたかったが叶わなかった。
ころりと足元に富士山の形の根付けが転がる。

「あ……」

どんなことが有っても、無事に生きて帰るのを待っていますと、不死(富士)に願いを込めて妻が持たせたものだった。
一衛の父を看取るほんの短い間も、近くの家から運んできた畳を突きぬけて弾が足元の土をえぐり小石を飛ばした。
ゆっくりと感傷に浸っている暇はなかった。

「鉄砲隊!構え!大砲(おおづつ)引けっ!」

鉄砲隊の隊長として直正は出来うる限りの指揮を執った。
合流してきた別の大砲隊の面々が直正の血塗られた姿に驚く。

「直正!手傷を負ったのか?」
「いや。これは叔父上の血です。わたしは、怪我はしておりません。」
「そうか。それは何より。」
「それよりも大砲隊の方々、御助勢かたじけない。」
「なんの。だが、こちらも隊長が深手を負って、仕方なく退くところだ。背後を突く作戦だったんだが、呼び戻されてな。ともかく合流できてよかった。しかし……この有様では会津武士の面目躍如というわけにはいかぬな。火力の差に、そこもとも気付いただろう?」
「はい。まるで話になりません。ひどい有様です。」
「林隊長は、戦死されたそうだよ。」
「えっ!?林さまが……」

ふと見れば林隊は兵の半分以上を失っていた。
頼みの大砲も、撃ち続けたせいで二台が砲身が焼けてひび割れ、使い物にはならない状態だった。
重傷の林は戦列から離れることを良しとせず、指揮をしながら絶命したという。

「方々。この上は一旦引き、殿の元に参るのが良策と思われます。」
「そうだな。かくなる上は、諸藩の力を結集して、もう一度出直すしかないな。」
「薩摩と長州、相手は二藩だけだ。新式の武器をもってしても、幕軍の総力を結集すれば恐れることはない。目にもの見せてくれようぞ。」
「一度の負け戦で、すべてが決まるわけではない。立て直しじゃ。」

鳥羽伏見の戦いは、こうして惨憺たる敗戦で終わったが、会津兵はまだこれが終わりではないと信じていた。
兵士の数だけを見ても、幕兵の方がはるかに多い。おおよそ三倍の人数は居るはずだった。
堅固な大阪城で待つ容保の元へ行けば、活路が開かれると信じていた。
誰よりも清廉潔白な至誠の人が、朝廷に仇名す逆賊と謗られるはずはないという確信が胸にある。
藩主容保の存在が、暗闇を照らす灯明となり、傷ついた藩士達の重い足を、ただひたすらに大阪へと運ばせた。
だが、苦労して大阪にたどり着いた彼らは、思わぬ局面に言葉を失う事となる。
城内に悲鳴のような怒号が木霊した。

大阪城に彼らの求める容保の姿はなかった。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

(´・ω・`) 殿はいったいどこに行かれたのか……
(´Д⊂ 「皆の者、すまぬ……」

どんどん逃げ場を失ってゆく会津なのです。  此花咲耶


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