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終(つい)の花 46 

武士としての意地と矜持だけではどうにもならなかったが、会津藩士はひるむことなく勇敢にたたかった。鳥羽伏見の戦いで、一番勇ましかったのは会津兵士だったと、誰もが認めている。

直正と一衛の父は、共に最前線にいた。
一度退却して、策を練るよう進言する直正は、その場で攻撃を続けるという叔父に食い下がっていた。

「叔父上!しばしの間、お待ちくださいと言っておるのです。」
「ならぬ!負け戦のまま引くのは、会津武士の名折れだ!今こそ芋侍に会津武士の魂を見せてやる。会津の侍が、一矢も報いずにおめおめと逃げかえるような真似が出来るか。」
「叔父上!逃げ帰るのではございません。総崩れの今、一度引いてから兵を立て直すのです。ご覧のとおりお味方の怪我人は、思った以上に多うございます。これ以上、兵を失っては大阪城の殿に顔向けできませぬ!せめて援軍の居る所まで、退却してください……!」

叔父は顔面を真っ赤にして怒鳴った。

「ええいっ!くどいぞ直正。臆病者は会津にはいらぬ。命を惜しむような奴は、会津に非ずというのがわからぬか。会津武士の意地をとくと見よ!ーーー!」
「叔父上――っ!」

歴戦の会津藩士はひるまなかった。
止める間もなく、弾幕の中をかいくぐるようにして、一衛の父は薩摩兵の待つ陣へと斬り込んだ。

この頃、先祖伝来の刀槍にこそ、武士の魂が宿ると考えた会津武士が殆どだった。
鎧を身に着け、ぎりぎりと刀が血潮で滑らないように襷(たすき)で縛り付けた腕を振り上げたまま、敵の中に真っ直ぐに駆け行く背を直正は呆然と見送った。
誰よりも勇猛果敢で、会津中に名の知られた自慢の叔父だった。
だが今は、予想もできなかった西洋の火力に、太刀打ちできない現実を認められない時代遅れの武人でしかない。
会津の武士道は、変革を好まず時代に遅れていた。
直正ら若い藩士が、どれほど建白書を奏上しても、時期尚早として取り上げられることはなかった。
実際には厳しい財政事情が枷となっていたのだが……

単騎攻め込む叔父は、直正の心配した通り小銃隊の格好の的になった。
前方、左右からどんと一斉に撃たれた弾が何発も命中し、空中でえびぞった姿勢のまま叔父は地に落ちた。

「叔父上――っ!!」

連発銃の弾が行き交う中を、直正は走った。ほんの少し、身じろいだのを直正は見逃さなかった。
直正が叔父を抱えて連れ帰るのを、味方がかろうじて援護する。
殺傷能力の高い新式銃は、瞬時に叔父の脇腹の肉と内臓を削ぎ取っていた。瀕死の叔父を抱えた直正の手甲も、真っ赤に染まった。

「叔父上っ!叔父上!傷は浅うございます。直ぐに手当てを致します故、暫しご辛抱なされよ。誰か、衛生兵を!」
「な、直正……すまぬ。刀を交えたらあんなやつらに負けねぇけども……あやつらの傍にも寄れねぇ。お前の言う事を聞くべきだったな。やつらの鉄砲は、会津のゲベールとは比べ物にならねぇ……」
「すぐに衛生兵が参ります。この位の傷、手当てさえすれば……」
「……直正は……昔から、嘘を吐くのが下手だなし。」
「叔父上、お静かに。話すと傷に障ります。」
「もう終いだなし……生きて国に帰れたら、これを……渡してやってくれねぇか。」

血染めの左手が懐を力なく探り、故郷で待つ妻の為に求めた櫛を握った。

「それはご自分でお渡しください。叔母上が喜ぶ顔が見たいでしょう?それに直正は一衛に土産をたくさん買いましたから、これ以上荷物が増えるのは困ります。」
「うん……だがなぁ……力が入らないのでな……荷物を持てそうにない……んだ。どうやらわたしは……一足先に会津に帰る事になりそうだ……直正、一衛に父の最期の話をしてやってくれ。後は頼む。」
「なにを弱気なことをおっしゃるのです!叔父上っ!お気を確かに!」
「……殿を……会津を……一衛を……たの……」
「叔父上っーーー!!」

ふっと微かに優しい笑みを青い顔に張りつかせ、血刀を握り締めたまま叔父は事切れていた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)

あまり出番のなかった、一衛の父上がいきなり戦死してしまいました……(´・ω・`) あら~……

(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「直さま……父上が……」「うん。此花のせいだな。」

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4 Comments

此花咲耶  

nichika さま

> 物語が史実に沿って悲しいので、ついコメすら泣きが入りそうでした。最新の西洋式には立ち向かっても。。。これはいつの時代でも変わらない気がしますね。
> 直さまの気遣う言葉に(ノд`)うぅぅ・・・

(´;ω;`)そうなの、史実を追うだけでも涙が出そうなところがたくさんあります。
いつの時代も戦で泣くのは、弱いものなのです。
>
> 追伸の「うん。此花のせいだな。」← そうΣd(゚∀゚。)デス!!   逃げろε=(/*~▽)/

─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ「こら~っ!逃げるな~」

史実を追いすぎて、時折主人公が行方不明になりそうです。何とか籠城までストックができましたが、こののち一衛と直正は塗炭の苦しみに……(´;ω;`)←こいつのせいで。
コメントありがとうございました。

2015/05/17 (Sun) 20:56 | REPLY |   

此花咲耶  

鍵付きコメントnさま

文章を書いていますと、興味があっても、見るのに追いつかない状況です。
時間がないのでっす……(´・ω・`)
でも教えていただいたので、ようつべで検索して見つけました。
ほんの少し、設定を使っているのですね。(〃゚∇゚〃)中々惹かれる内容でした。
ありがとうございました。

2015/05/17 (Sun) 20:37 | REPLY |   

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2015/05/17 (Sun) 09:13 | REPLY |   

nichika  

お久しぶりです!

物語が史実に沿って悲しいので、ついコメすら泣きが入りそうでした。最新の西洋式には立ち向かっても。。。これはいつの時代でも変わらない気がしますね。
直さまの気遣う言葉に(ノд`)うぅぅ・・・

追伸の「うん。此花のせいだな。」← そうΣd(゚∀゚。)デス!!   逃げろε=(/*~▽)/

2015/05/17 (Sun) 08:56 | EDIT | REPLY |   

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