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小説・約束・14 

いつも以上に烏の行水の良平を、母親が見咎めた。

「あら。ずいぶん早いこと。」

「良平、お爺様にご挨拶していらっしゃい。」

この子は、もう・・・といいながら、割烹着のすそで耳の辺りをぬぐってくれた。

「小さな子供みたいに、ほら、こんなに泡つけて。」

「ありがと。」

二日に一度、お湯を立てて風呂を使った後は、孫とはいえ居候はきちんと挨拶に行くのが常だった。
一番奥の当主の部屋の前で、声をかけた。

「おじいさま。お風呂頂きました。ありがとうございました。」

「良平か、まあ入りなさい。」

父によく似た、静かな声がする。

「もう、こっちの暮らしには馴れたようだな?」

「ええ、すっかり。」

「この間、先生にあったぞ。」

いささか、心の中で思い当たる節がある。
教卓のチョーク入れに、山ほどかえるを取ってきて入れておいたのと・・・
自転車のかごの荷紐を捨てて、代わりにアオダイショウを入れておいたのと・・・
年配の先生が、腰を抜かしたのはちょっと気の毒だったけど。
後は・・・

「元気があって、いいと褒めておった。」

あはは・・・と、良平は力なく笑ってごまかした。

「勉強の方は、大丈夫のようだな。」

何だ、先生は告げ口しなかったんだとちょっと安心した。
佐藤の殿様に、ただ気を使っただけなのかも知れなかった。

「東京のほうが、進み具合が早かったので今のところ大丈夫です。」

「そうか。良輔に聞いたんだがおまえは後をついで、医者になる気なのか?」

もっと、大きくなったら、気が変わるかもしれないけれど、今はそのつもりだと正直に答えた。

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