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終(つい)の花 41 

どれほど容保が帝を頼みにしていたか、帝が容保を大切にしてきたか、京に来て以来傍で見ていた。
朝廷と幕府の垣根を越えて、互いに支えあって来たのを、会津藩士は皆わかっていた。

直正が工面してきたいろいろな物を、帝が喜んでおられたぞと、褒められて有頂天になった少年のような笑顔を家老も覚えていた。
特別に下賜された衣で仕立てた陣羽織に袖を通した容保の華やいだ様子に、帝にさえ頼みにされていると知り、家中一同どれほど誉に思ったか。あまりの嬉しさに、容保は湿版写真にその姿を残した。
だが、家老は知っている。容保に寄せる労わりは、心無いものの嫉妬と猜疑心を産んだ。

強張った顔を前に向けて、呟くように容保は独りごちていた。
虚ろな目は、何も映していなかった。

「余には、その方等がいるから良い。だが……帝は御所で多くの者に囲まれていても、いつも孤独であった。ご立派な御陵に入られても、またお一人だ……さぞかし寂しかろうな。出来るなら、肥後が供物の人型となって冥府まで供をして差し上げたいと思う。……皆は許してくれるだろうか?」
「殿……?何を……?」
「……戯言……だ……」
「殿―――っ!」

葬儀が終わると、容保は張りつめた糸が切れたように倒れた。

*****

一睡もせず帝の傍に居た容保の病状は重く、脈を取った医師は、これ以上のお役目には就かれまいと首を振った。

「これではとても、御政務は務まりますまい……ひたすら養生していただかねば、お命に係わります。」
「それほどまでに……殿は命を削って御奉公してきたのか。」

胸と鳩尾当たりの鈍い痛みに苦しみ、ぜいぜいと浅い息は荒く、呼吸すらしかねている様子だった。

重臣たちは何とか容保を役目から放ち国許へ帰れるように手を尽くすが、幕府にとって虎の子の容保を手放すはずもない。
将軍慶喜も長州藩の官位復旧建議を理由に、脅したり宥めたり、時には涙を浮かべたりして容保を引き留めた。
慶喜の腹は見えていた。このままでは自分一人が責を負わねばならない、それだけは避けたかった。

長州征伐を履行しなかった幕府は、最後まで責任の所在を明らかにする気はない。
長州藩、寝返った薩摩藩等、討幕派が息を吹き返しつつある今、会津藩に引いてもらっては困るというのが本音だった。今や幕府が頼みにするのは会津と、容保の弟が養子に入った桑名藩しかいない。

その上、幾多の面倒を押し付けて居ながら、長州が復権してくると、これまでの容保の働きにさえ、居並ぶ幕閣からねぎらいの言葉すらなかった。
江戸からは京で孤軍奮闘する会津藩の姿は見えていなかった。

いつしか尊王攘夷派は名を変え、討幕派となって、じわじわと幕府を追い詰めようとしていた。
容保の帰郷に関し、会津藩では幾つもの条件を提示したが、それでもすぐにお役御免という訳にはいかなかった。
国許へは、容保の様子を知らせる早飛脚が何度も送られ、心配の余り、ついには国家老が会津より上京する。
長年の京都守護職の役目により、疲弊した会津藩の実情を伝え、藩内軍制改革のためにも、是非お帰り戴きたいのですと、必死に帰郷の期日指定を求めたが叶わず、仕方なく養子に迎えた慶喜の弟だけが帰郷することになった。
国許でも、末端に至る藩士までが皆、容保の身を案じていた。

「ずっとお熱が下がらぬらしい。」
「先の帝が薨去されたことで、殿は落胆されたのだろう。ずいぶん、信を得ていたそうだから……。」
「しかし、帰郷を許されぬとは解せぬ。我らの京都でのお役目は、天子様がお隠れになったことで終わっていると思うのだが。」
「左様。長州も息を吹き返しつつある今、長居は無用と思うが、その方はどう思う?」
「引き際を誤れば、ますます泥沼に足を取られることになるだろうな。幕府のお許しは何故出ないのだろうな。」
「やはりどうあっても、藩祖の記された家訓第一条を引き合いに出されるか……」
「さすれば、会津はどこまでも幕府の盾にされるのだろうか。」

大人たちの議論を小耳に挟み、年端も行かない子供たちですら藩の行く末と藩主を案じた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

ついに倒れてしまった容保……
会津のこれからは、どうなるのでしょうか。(´・ω・`)  此花咲耶

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