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終(つい)の花 38 

居並ぶ藩士の中に、小さなざわめきが広がった。
年功序列を大切にしている会津では、若輩者の直正の意見が通ることは、普通では考えられない。
その為、会津藩の軍制改革は他藩よりもかなり遅れていて、いまだ長沼流が主流を占めている有様だった。
重臣達の頭は固く、口々に長州を討つといっても、現実にはこれと言った手はない。戦をするには装備が整っていないことを、会津の古い中枢はまだ知らないでいる。
直正はまだ若いが、広く世間に目を向けていた。江戸遊学は道半ばであったが、会津家中では、日新館で教鞭をとるほどの秀才と言われている。
蛤御門では抜擢されて鉄砲隊を率いたが、これも会津藩では異例といわれるほどの出世だった。

「直正か。許す、存念を申してみよ。」
「はっ。ここは殿の代わりに、どうあっても徳川宗家が御出陣されるべきだと思います。」
「……余もそう思う。だが、あの方はなかなか腰を上げられぬ。良い手があるか?」
「お許しいただきましたので申し上げます。朝廷に弓を引くなどもってのほかと、帝から幕府に征討を命ずる詔勅を頂けばよろしいのです。帝のお言葉なれば、徳川宗家も否とは言いますまい。」
「うむ。」
「会津は京都守護のお役目が有ります故、帝のお傍を離れる事適わずと前置きをしたうえで、幕府の意にそむいた長州を罰せよとの御沙汰があれば、慶喜公とて、重い腰を上げないわけには参りません。元々征長の大義名分は、会津ではなく朝廷と徳川宗家にございます。」

居並ぶ重臣達は、ぽんと手を叩いた。

「なるほど!勅命を頂いて、徳川宗家が長州征伐に出向くという訳か。」
「攘夷を謳いながら、えげれすと手を組む長州には、武士の矜持の欠片もありませぬからな。」
「徳川慶喜公自らが、大軍を率いて御出陣されれば、幕府の威光を示す事にもなるのう。」
「上様が号令されれば、さすがに腰抜けとなった諸藩の大名も続きましょう。」

直正は続けた。

「勝ち戦の神輿として、大樹公は大軍を引き連れ出陣されればよろしいのです。」

微かに容保は綻んだ。
青ざめた頬に血の気が戻っていた。

「それは良い。妙案じゃ、直正。さすがは会津の若者じゃ。まずは長州の事、帝に奏上してこよう。」
「御供仕りまする。」

容保の長州征伐に出陣したいという願いは、帝には聞き届けられなかったが、思惑通り慶喜の届け出の方は受理された。
しかし移り気な徳川慶喜は、一度は納得して腰を上げたものの、すぐに気が変わり長州征伐を中止すると言い出した。
容保だけが、必死に征討の手を止めぬよう進言した。

「上様。それでは後顧の憂いが残りまする。」
「もう決めた。」
「なれど……」
「くどい。寛大な所を見せて恩を売っておくのも、策の一つじゃ。」
「甘すぎまする。」

容保は猛反対したが、この日和見将軍は腰を上げず、征長中止決定は変わる事は無かった。しかも諸藩が揃って出してきた長州藩復権嘆願に、揺れている。
これ程までに胆力の無い将軍であったかと、容保は落胆した。





本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)  
朝廷を砲撃した長州藩を討つべきだとする会津藩でしたが、徳川さまはのらりくらりです。
会津が大好きなこのちんとしては、いらっ~としてしまいます。
でも、慶喜贔屓の人には、そこは深い考えがあるんだとおっしゃいます。
歴史って見方で全然違ってきますね~      此花咲耶

(`・ω・´) 「せっかくの容保さまの進言も、徳川様にはまるで届かないのです。」
(´・ω・`) 「困ったお方です……」


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