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終(つい)の花 37 

本来ならば一丸となって幕府を支えるはずの諸藩は、まるで重箱の隅をつつくように、施政の綻びをつつく。
尊王攘夷のできもしない約束を、違えたと言って若い将軍家茂を追い詰めてゆく。
どちらに付けば得か、どの藩も曖昧な態度で決断を避け、ひたすら保身に走るばかりであった。

孝明天皇の妹、皇女和宮が降嫁した徳川家茂という心優しい貴公子が、病を得て大阪城で崩御すると、思いつくままにその場しのぎの策で世渡りをする徳川慶喜が将軍職を継いだ。
幕府重鎮にさえ信頼されていたとは言い難いこの短慮な男に、会津藩は散々に振り回されることになる。

固辞しつづけた京都守護職を、松平春嶽と共にごり押しした一橋慶喜が将軍となったのを、口にこそしなかったが苦々しい思いで会津藩重役は聞いた。
立場を振りかざし、再びどのような無理難題を、主君に吹っ掛けて来るか覚悟をせねばならない。
幕府は未だに攘夷に手を焼き、長州藩の仕置きすら手を付けられないでいた。

「何故、長州をあのままにしておかれるのか。今、ここで一気呵成に長州を叩いておかねば、再び幕府に手向かいしかねぬ。あれは腹の黒い狐狸ですぞ。」

慶喜に詰め寄る容保の顔には、深い疲労が刻まれていた。
藩屋敷では、家老が口をそろえる。

「殿!今長州を叩いておかねば、後顧の憂いになりまするぞ。一体幕府は何をお考えなのか。」
「左様。3家老の塩漬けの首を納め、力が削げた今こそが絶好の好機でござる。何ゆえ、将軍家は長州征伐に出陣せよとおっしゃいませぬ。我ら家中、殿が出陣されれば喜んで御供仕りまする。」
「今のまま捨ておいては、あやつらが再び息を吹き返しかねませぬ。幕閣は何をお考えなのか。」
「殿!殿の御存念やいかに?」
「う……ん……」

容保は、鳩尾の鈍い痛みに脂汗を浮かべていた。
熱も長く引かず、困憊していた。後々を思えば、長州を今叩いておくべきだと詰め寄る家臣の心配はもっともだと思う。
幕府に誠を尽くす会津の家老たちが間違っているとは到底思えない。

「……余も……その方等の言うように、何を置いても征長(長州征伐)すべきだと思う。幕府に話しても埒がいかぬので、思い切って朝廷に会津一藩の出陣願いを奏上したが……帝は肥後守(容保の事)は京から離れる事はならぬと仰せじゃ。余もまた、これまでの事を思うと、不安を抱えた帝をお一人にするのは忍びないと思う。だが、長州をこのままには捨ておけぬ。余はこの上は、何とか帝を説得して、ご宗家が動かねば肥後だけでも長州を征討すべきだと思っている。」

それは容保の本心だった。

「帝が殿を一番頼りにされているのは、誰しも知っております。しかし、長州を野放しにしては再び力を蓄えるは必定……既に一度は戦ったえげれす国から、武器を仕入れて戦の準備をしているとの情報も得ております。」
「二股膏薬めが……」
「誰かこの場にいるもので、長州征討の妙案のある者はいないか?火急の軍議ゆえ無礼講じゃ、誰ぞ意見を述べてみよ。」

家老の田中土佐は立ち上がり、大広間に詰めた藩士を眺めた。
軍議の席に詰めた者たちは顔を見合わせた。

「卒爾ながら。」

末席の直正が席を立った。




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