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終(つい)の花 36 

友人たちは慌てた。

「え?何だ?どうしたんだ。」
「なんで泣くんだ、一衛?直さまはお元気で御活躍だったんだろう?」
「一衛?」
「泣くようなことは、どこにもなかったじゃないか。」

同輩が心配して、顔を覗き込む。

「ばか。一衛は直正さまが大好きなのだ。会いたいのを我慢しているのに、皆が余計な事を言うから思い出してしまったんだろう。」
「だいじょうぶだ、一衛。相馬殿は一衛の事を一番に考えていてくれるさ。これまでだって、ずっとそうだったんだから。でないと、こんなに頻繁に文を寄越したりしないさ。」
「そうとも。大切に思っているに決まっているさ。きっと京女になど目もくれず、お役大事で頑張っているに違いないよ。」
「……そうか。ごめん……一衛。……おれも、本当は兄上に会いたいよ……」
「おれも……父上に……会いたい……」
「ふぇ……っ……ん……直さま……に会いたい……」
「ごめんよ、一衛……」
「うわ~ん……父上~。」
「え~ん……」
「あ~ん……」

一人が泣きだすと、周囲の者も皆堪え切れずに、一斉に涙腺が決壊してしまった。
彼らの父親、兄も多くが京都へ赴任していた。
決して弱音を吐かない彼らも、気の置けない仲間といる時は年相応の少年になる。
周囲に大人がいる時は、背伸びをして会話をしていたが、本当は誰もが大切な人を見送り心の内では寂しかった。
友の前でだけ、肩を震わせて素直に彼らは泣いた。
胸の穴にびょうびょうと風が吹く。
本当は誰も寂しかった。

******

追放された長州藩は、全軍を引き連れ国許に帰った。
これまで息のかかった公家が散々に発行した偽勅は、もはや詔勅としての効力を持たず、長州は追い詰められてゆく。

禁門の変で多くの重臣を失った長州藩には、追い打ちを掛けるように、帝から長州を討つようにと征長の詔が出た。
驚いた長州藩では、藩主は知らなかったこととし、表向き恭順を決めると3家老の首を差し出した。
血の涙を流しながら「泣いて馬謖を斬る」如く、しおらしく頭を下げ猛省していると見せるのが、長州藩の取った生き残る道だった。

彼らは京都で受けた仕打ちを忘れず、謝罪して見せながら、草履の裏に会津薩摩の名を書き、踏みしめた。
来る日に備えて懸命に藩を建て直し、軍政を整え牙を研いだ。
見方を変えれば、彼等にもまた彼らなりの譲れない正義が有ったというべきなのだろう。

国を憂える意志がうねりとなって渦巻くのを、長い安寧に胡坐をかき黒船の来襲に右往左往する幕府には止められなかった。
形ばかりの長州の謝罪を、あっさり徳川宗家が受け入れるのを容保は複雑な思いで見つめていた。
何度も長州を叩いておかなければ、後々息を吹き返し幕府に仇をなすことになる。そうなってからでは遅いと、伝えたが幕府の重臣は重い腰を上げなかった。
江戸にいるものは、会津がどれほど苦労して京都を守っているか考えていない。常に身体を張り働いてきた会津藩士は、誰かを陥れたり騙すのは卑しいと信じて生きてきた。

「なぜ、わからぬ。機を逃せば手遅れになるというのに。」

魔物が跳梁する日本国で、病弱な藩主が身を削る会津藩だけが、最後まで震える巨象を支え続けた。




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