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終(つい)の花 35 

「お。相馬殿。どこへ行かれる?」
「国許へ文を送りに参ります。」
「なんだ、いつもの飛脚屋か。浮かれた足取りゆえ、てっきり女子にでも会いに行くかと思ったぞ。」
「はは。朴念仁ゆえ、そのような話はありません。」
「つまらぬ堅物じゃ。島原の女もなかなかいいぞ。そのうち遊女屋に連れて行ってやろう。」
「はは……そちらの方は、いずれまた。では、これにて。」

直正は暇を見つけては、日々の暮らしを知らせる文を一衛に送っていた。
脂粉の匂う京女などどうでもいいと、直正は思っていた。
直正に声を掛けて来た同輩も、口ではそう言いながら生真面目に、くくり弁当で任務に励んでいる。顔に面ダコが出来ているのがその証拠だった。
会津藩士は一本気で、滅多に羽目も外さない。
遊女屋に入り込みうつつを抜かすのは、西国の男たちだけだ。
金を落とさない朴念仁と、京都人は小馬鹿にしたが、会津人はお役目一途な律義者だった。

*****

国許では、一衛が楽しみに待っている。
直正の方も、時折、一衛から送られてくる他愛のない文を楽しみにしている。

「一衛。その懐の文、直正さまから届いたのか?」
「うん。1か月ぶりに届いたんだ。」
「ずいぶんと嬉しそうだな。何と書いてあったんだ?」
「裏切り者の長州藩を、わが殿が京都の町から追い出したって。」
「そうなのか?西国のことはよくわからないが、上手くいったってことなんだな。」
「悪いやつ等が、帝の言葉を偽って伝えて来たらしいんだ。それをご重役の方々が気付いて、詰め寄ったって。それで、長州藩の悪巧みが分かったって書いてあった。」
「そうか。さすがは相馬殿だな。」
「新しく洋式銃を取り入れて鉄砲隊を組織したそうだから、直さまもきっと御活躍だったと思う。直さまは鉄砲隊を率いたそうだよ。」
「そうか。一衛は直正さまと共に、鉄砲を撃ったことが有るんだったな。八重先生にもお話しよう。」
「うん。直さまの御活躍をお伝えする。三郎さまも一緒にいらっしゃるはずだから、お話が聞けるかもしれないね。」

直正が国を立つ前、いつかは会津藩でも洋式銃が必要になるだろうと話していたのを思い出す。
一衛たちは直正の文に書かれた会津藩の働きを、自分の物のように感じていた。
父のいない寂しさも、兄のいない虚しさも、一衛が胸に抱いた優しい直正の文が埋めてくれた。
直正からの文が届く度、一衛の友人たちは一衛を囲み、書いてある中身を知りたがった。

「京へ行かれた方々は、1年経てば交代されるのだろう?相馬殿も次こそは帰って来るかなぁ。待ち遠しいだろう、一衛。帰って来て下さいって、文を書けばどうだ。」
「ううん……。直さまには会いたいけど、お役目のことは言えないよ。わたしの父上は蝦夷からそのまま江戸屋敷に下向して、殿の護衛に付かれたままだもの。もう何年も会ってないから、交代はお役に依るのかもしれないね。」
「そうだったな。他に何が書いてある?あ。直正殿は男振りが良いから、京女がほおっておくまいって叔父上が酒の席で言ってたぞ。そんなことを書いていないか。」
「京おんな……って?」
「雅でたおやかなんだそうだよ。女を抱くなら京女に限るって、叔父上が言っていたから、もしかすると、向こうで妻を迎えているかもしれないぞ。」
「馴染みの芸妓が出来て、二人で京の藩邸の近くに住んでいたりして。」
「いいなぁ。もしもそうなら美しい方だと良いな、親戚になるんだったら見目良い方が嬉しいもの。一衛もそう思うだろう?……一衛?」
「……直さまが……」

一衛の大きな目がしばしばと瞬くと、ふいにぽろりと滴が転がった。




本日もお読みいただきありがとうございます。
遠く離れた京にいる直正と一衛をつなぐのは、時々直正が送ってくれる文だけなのでした。

(つд・`。)・ ゚「直さまが京都の女性と……」

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