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終(つい)の花 27 

会津藩では、藩士の中でも優秀な精鋭部隊一千人を送り込んだ。
その中には若くして鉄砲隊隊長に抜擢された直正の姿もあり、一衛は目許を赤くしてじっと旅姿の直正を見つめていた。

直正のきりりと短い義経袴の裾は、黒い天鵞絨(びろうど)の布を縫い付けほつれぬようにしてある。
見つめる一衛に気付き、直正は人の輪から離れ走り寄って来た。

「一衛!」
「直さま……。一衛はまたお留守番です……。」
「うん。一衛には、まだ日新館で学ぶことがたくさんあるから、仕方がないな。」
「どれほど頑張っても、直さまに追い付けませぬ。直さまはいつも一衛を置いて先に行ってしまわれます……」

心細げな一衛が、寂しさについ漏らした本心に微笑んだ直正は、腰の印籠を一衛に手渡した。

「そう言うな。これを預けておく。」
「これは?」
「中は藩医殿に貰った咳の薬だ。一衛は喉が弱いから寒くなったら冷やさぬようにするんだよ。京都へは物見遊山で行くわけではないが、きっと文を書く。叔父上の事も知らせるから、日新館でしっかり学びなさい。いつか一衛が藩のお役にたてるようになったら、これを届けにわたしの所においで。」
「あい。きっと直さまのように、飛び級で講釈所(大学)へあがって見せます。傷の手当てもきちんとします。」
「うん。良い心がけだ。」
「きっと文をくださいね。」
「約束しよう。」

共に見送りに出た叔母が、呆れた顔をしていた。
離れがたい一衛の頬は濡れ、手が直正の袂を掴んでいた。

「なんですか、一衛は。童のように甘えるものではありませぬ。男(おのこ)がそのようにめそめそとしては、直さまが御困りです。めでたい御出立に涙は禁物ですよ。しっかりなさい。」
「ち、違います……別れがつらくて泣いていたのではありませぬ。目に、ご、ごみが入って……」

一衛は慌てて目許をこすった。

「叔母上、お見送りありがとう存じます。一衛はわたしにしっかりと勉強すると誓ってくれたところです。な、一衛。」
「あい。しっかり励みます。御留守の間、国許の事はお任せください。」
「それでこそ、わたしの弟分だ。」
「直さま。あの……これをお持ちください。諏訪神社のお守りです……武運長久をお祈りしたのです。」
「そうか、皆の分もあるのだな。京でお会いしたら、一衛からだと言って叔父上に渡しておこう。では、行って参ります。」

小雪のちらつく中、彼らは容保と共に華々しく出立した。
藩士たちは、ひとまず江戸屋敷に逗留する。
京都での本陣が決まったら、移動する手はずになっていた。
この後、江戸詰めの多くの藩士が、駐留地が決まった朝、一斉に京へと旅立った。

勇壮な旅立ちを見て、誰がこれから先の会津の塗炭の苦しみを予感しただろう。
皆それぞれの思いを胸に、隊列を見送った。
一衛も胸に印籠を抱き、直正の背に誓った。

「直さま。どうぞお達者で、存分にお励み下さい。いつかお傍に参れるように、一衛も精いっぱい励みまする。」

風花の舞う中、それぞれに別れを惜しむ姿が有った。
行列が見えなくなるまで、一衛は手を振った。

「直さまーーーっ!」

届くはずのない声を張り上げた。

「直さまーーーっ……」

会津はこれから冬になる。




直正は旅立ってしまいました。
一衛は寂しさをこらえ、懸命にはげみます。
(`・ω・´)「武士ですから。」

会津藩家訓は、藩祖保科正之が制定いたしました。
彼はれっきとした将軍家の血筋です。
二代将軍秀忠が、正室に内緒でお静という女に手をだし、正之が生まれました。
兄の手で、引きあげられた謙虚な正之は、決して将軍家の恩を忘れまいと誓ったのでした。
正之自身も、将軍家のために身を粉にして働いています。
……この家訓(会津ではかきんと読みます)さえなければね~……と、ちょっぴり思うこともありますが、無ければ会津藩の根幹が崩れてしまうので……う~ん……(´・ω・`)


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