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終(つい)の花 24 

一衛のような若年者に知らされる事は無かったが、既に元服も終えた直正の耳には、会津藩が置かれた厳しい状況が色々と入って来ていた。
日本中がまだ経験したことのない動乱のるつぼに巻き込まれようとしている。
これから会津全土を襲う惨劇など、誰にも予想できなかった。

江戸では、井伊大老が急襲される桜田門外の変が起こり、容保の近辺は俄かにきな臭くなった。幼い頃より容保は、近江彦根藩藩主、井伊直弼とも親交があり、まるで甥のように可愛がられている。
急きょ会津から江戸に呼び戻された容保は、感情を抑え、事件の首謀者とされた水戸家誅罰を中止させた。
幕府をささえる大名達の分裂を回避すべく、公明正大な処罰の建白書を将軍家へ奉じ、御三家でもある水戸家との調停に当たったのは、容保ならではの賢明な方策だった。
この件で一躍、会津藩主松平容保の名は幕閣内に広まり、傾きかけた将軍家の中心人物として参政に名を連ねる事になる。
左近衛権中将に任ぜられた27歳の容保は、病身を押して懸命に政務にまい進していた。
その前年、正室敏姫を亡くしたばかりだった。

*****

城勤めの父親が、慌ただしく帰宅した。
城へは毎日のように、容保の様子を知らせる早飛脚が届いている。

「直正。どうやら、江戸への遊学はしばらく延期することになりそうだ。」
「父上?何か起こりましたか?」
「直正もわしと同道するようにと、沙汰があった。」

江戸で学ぶ夢はあったが、上級藩士の直正にも、最近の慌ただしさを見て、遊学したとしてもほどなく呼び戻されるだろう予感があった。

「行き先は江戸藩邸ですか?」
「事が起これば、わたしもそなたも、江戸から京都へ上がることになる。幕府から内命が届いているそうだ。」
「内命とは、穏やかではありませんね。江戸家老さまが、知らせて参ったのですか?」
「夕刻に、早馬が来たそうだ。」
「江戸で何が起こっているのですか?殿が幕府に重用されているのは分かりますが、この上まだ何か難題を持ちかけられているのでしょうか。」

父は既に腹をくくっていた。
いずれ、藩から直正に正式にご下命が下るだろう。

「江戸から国家老に宛てて書状が来たのは、殿が断り続けているお役への相談だ。もはやどう手を尽くしても断りきれなくなっているらしい。」
「殿に京都の治安を守れという幕府の御意向でしたら、だいぶん前から噂になっているのでわたしも知っております。何でも新しいお役目ができたとか?」
「その通りだ。京都守護職などと、もっともらしい名がついてはいるが、幕閣が会津を担ぎ出すために新しく作った役職だ。幕府の力では抑え込めない不逞浪士が跋扈しているので、これを会津一藩で片づけろという事らしい。」
「会津だけで不届き者を討伐するのですか?他藩の方々は?こういう時こその御三家ではありませぬか。」
「平安の世に慣れきっている徳川の御世に、まともな武士などいかほどもいるものか。殿は貧乏くじを引かされたのよ。」
「父上、貧乏くじとは、いささかお言葉が……。」

深刻な話をしている割に、父はふっと相好を崩した。

「なぁに、今のは戯言だ、気にするな。すぐさま頼母どのが殿の所へ旅立たれる。此度の無理難題を、何とかお断りできればいいのだが、断りきれぬ時は会津は大変な事になると、お諫めする心づもりだ。どれほど莫大な費用が必要になるか想像もつかないと、勘定方が頭を抱えているしな。」
「しかし、わが殿が幕府の頼みを断るでしょうか。わが藩には藩祖以来の御家訓がありますれば。」
「う~ん……その上、殿は狡さの無い真っ直ぐなご気性の方だからな。清廉なご気性だから、狐狸の中に入って苦労されるかもしれぬ。我らが傍に居てしっかりと御支えせねばな。」
「はい。この直正も微力ながら。」
「よし。そうと決まればまずは一献。」
「父上。」

何よりも酒を愛する父だった。




いよいよ会津守護職を引き受けることになりそうな、会津藩です。
直正ももう少ししたら、京都へ行くことになります。

(´・ω・`) 「……直さま……」


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