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終(つい)の花 21 

直正は膏薬を張り終えると、着物を引き上げてやった。
しょんぼりと俯いてしまった横顔に、何とかしてやりたいと思う。

「一衛。最近沈んでいるようだったのは、そのことが原因だったのか?わたしは、入学以来余り笑わなくなった一衛が、どんどん一人で大人になってゆくような気がしていたんだよ。」
「一衛は……どうすれば強くなれるか、一人で考えていたのです。……これまでのように、すぐに直さまに頼ってはいけないと思って、我慢しました。」
「なぜだ?」
「江戸行きが決まったとお聞きしました。心配を掛けたくなかったのです。……直さまにお会いして優しくしていただくと、一衛は甘えたくなってしまいます。…優しい直さまといると、柔らかな真綿に包まれるような心地がいたします。」
「そうか。」
「……父上はいないし、母上には、女々しい泣き言は言えませぬ。お爺さまは卒中で寝たきりですから、相談もできませぬ。一衛は濱田家の嫡男ですから、強くあらねばと思っているのに……上手くいかないのです。直さまがお江戸に行って、傍に居なくなっても心配をかけないように、一衛は何でも一人で出来るようにならねばと思って……でも……。」

思い詰めていた。
直正の江戸行きを聞いて以来、喜びよりも一人になる心細さが勝ってしまった一衛だった。
不安が先に立ち、直正に直接祝いの言葉を告げようとしても、うまく言えなかったと言う。

「だから一人で強くなろうとしていたのか。わたしに心配を掛けたくなかったのだな。」
「あい……いつまでもご迷惑を掛けてはいけないと思ったのです。父上や直さまのように強くなりたいのに、上手くいきませぬ。一人で考えても答えが何処にもなくて……どうしていいか分からなくなりました。」

一衛の事を、いつまでも何もできない赤子のようだと思っていたのが、申し訳なくなる。
一衛なりに懸命に成長しようとしていた。
直正は一衛の手を開いて、固くなった竹刀だこに触れた。

「鍛錬を積んだ手だ……。北辰一刀流の免許皆伝の叔父上が今の一衛の言葉を聞いたら、きっと喜んで手ほどきをしてくださるだろうね。わたしはね、子供の頃、叔父上に剣を手ほどきしていただいたんだよ。覚えていないだろうけど、一衛がややの頃、毎日お庭で稽古をしていたんだ。わたしも一衛のように、誰にも負けないように強くなりたかったよ。」
「直さまも?」
「そうとも。殿に受けた御恩をいつか返したいと、一心に思っていたから剣の稽古を叔父上にお願いしたんだ。叔父上は江戸詰めの時に、前の大殿にお許しを頂いて、剣の修行をしたそうだよ。一衛、会津武士なら強くなりたいと思うのは、当然の気持ちだ。父上に教えを請えたらと思うのは、恥じる事では無い。一衛は叔父上の子供なのだから、きっと剣術の才もあるとわたしは思う。」
「そうでしょうか。」
「そうとも。何よりも強い気持ちが、己を強くするんだ。一衛にはそれがあるとわたしは思う。」
「直さま。」

父の事を口にすれば、ただの我ままになると一衛は思っていた。
どれほど会いたくとも、お役目でずっと藩主に同道している父に、剣術の稽古をつけてもらう事は叶わない。
その上、頼りにしていた直正も江戸行きが決まり、一衛は一人で不安と闘っていたのだった。
一衛にとって、それほど直正の存在は大きかった。





(´・ω・`) 「直さま……」

甘えたくても甘えてはいけないと思っているのです。幼いころのように、本当は甘えたいのでしょうが、武家の子どもは己を律することを知っています。

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