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終(つい)の花 20 

日新館に通い始めて、一衛は以前ほど直正の後を追わなくなっていた。
直正の顔を見れば小犬のように一目散に走ってきた一衛も、大人になって来たと言う事なのだろうか。
たまに見かけても、言葉を交わそうともせず、友人たちに交じって遠くから目礼をするだけだった。
直正はわずかに寂しさを感じていた。
父の言うように、一衛もひな鳥の巣立ちを迎えたのかもしれないとも思う。
直正は成長を嬉しく思いながらも、大切な弟が遠くなったような気がして一抹の寂寥感に襲われた。
もしも一衛が、嫁取りの話などをいきなりし始めたら、何と返答すればよいのだろうか。

「それはまだ早いと、たしなめるか……いや、早くはないか。既に許嫁がいるのもおかしくない年だし……大体、一衛は会津小町と言われた叔母上に瓜二つなのだ。城下にも一衛よりも見目良い年頃の娘などいないぞ。むしろ一衛に似合うのは白無垢の方……馬鹿。何を言ってるんだ、わたしは。」

自分の独り言に赤面した直正だった。
まだ11歳になったばかりの一衛が、そのようなことを考えているはずもないのだが、近ごろの直正は、一衛を手放す日が間近に迫っているようで落ち着かなかった。

*****

家に帰ると湯を沸かし、一衛の帰宅を待った。
隣同士だというのに、家に来ることも久しぶりのような気がする。

「直さま。お邪魔いたします。」
「ああ、来たか。縁側に回っておいで。」

座らせて着物を脱がせると、華奢な白い身体中のあちこちに青紫の打ち身の痕が有った。
直りかけた物もいくつもあり、直正は痛々しさに思わずため息をついた。

「思ったよりも酷いな。これ程打ち身が有ったら、身体中が痛むだろう?」

そっと腫れあがった肩の傷に触れると、耐えきれずに声が漏れた。

「うっ……」
「これをかすり傷と言い張るのだから……一衛は相変わらず、辛抱がいいのだな。骨はどこも折れてはいないようだが、ひどく腫れて熱を持っているじゃないか。槍術を頑張るのは良いが、手当てはきちんとしなければいけないよ。」
「……」

湯で患部を温め、一つずつ丁寧に膏薬を張ってやった。
黙りこくって俯いた、一衛の背中が強張っている。
直正は訝しく思った。

「一衛?どうした?わたしに手当てをされるのが、そんなにいやだったのか?医者に診てもらうか?」

一衛は強く頭を振った。直正の問いかけにも、固く口を結んでいた。

「困ったな。そんな風に何も言わないと、一衛の考えていることが分からないよ。」
「一衛は……強くなりたい……のです。」

涙をたたえた一途な瞳が、直正を捕らえる。

「そうか。上を見るのはいいことだ。傷を見ればわかる。すごく頑張っているじゃないか。」
「でも……思う通りにいかないのです。一衛は背が低いので、上から力で押されると潰されてしまいます。わかっていてもなかなか勝てなくて……いつも同じ手で負けて……転がされて笑われてしまいます。どうすれば、直さまのようになれるのかわかりません。」
「誰かに何か言われたのか?」
「同輩に……潰れた蛙のようだと言われました……す……ん。」
「そうか。」

一衛は顔を背けた。悔し涙が目尻に溜まっている。
小さな一衛が転がされたのを、面白がった仲間たちがはやし立てたのだろう。
子どもたちに悪気はなかったのだろうが、悔し紛れに続けさまに何度も立ち会って、一度も勝てなかった一衛は深く傷ついていた。




(´;ω;`) 「……すん。」←負けず嫌いの意地っ張り

ナデナデ(o・_・)ノ”(´・ω・`)←泣きそう

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