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終(つい)の花 11 

友人たちと別れると、直正は泣きぬれた一衛の手を引いた。

「困ったなぁ。どうすれば一衛の涙は止まるのかなぁ。壊れてしまった竹とんぼはまた拵えてやるから、もう泣くのはおよし。直さんは一衛が泣くと、どうしていいか分からなくなるよ。どこも痛くはないのだろう?」
「直さま……一衛は、直さまが流れて行ってしまうかと思って怖くなったの……です。一衛が竹とんぼを落として泣いてしまったから……直さまが……え~ん……」
「そうか。一衛はわたしが下流まで流されたから、溺れてしまうと思ったのだな?」
「……あい。」
「怖い思いをさせてしまったね。でも、わたしは水練は得意なんだ。一衛もいつか泳ぐだろうけど、日新館には漆喰の大きな水練場が有ってね、鎧を付けて泳ぐ練習もするんだよ。」
「……ひっ……く……」
「う~ん、まだ駄目か……今日は正直言うと水の流れが速かったから、一衛が川岸で引っ張ってくれて助かった。」
「……ほんとう……?」

丸い大きな目が、直正を見つめた。

「本当だとも。力持ちだな、一衛は。それに、あの細い橋を一衛が走って渡ったと聞いて、驚いてしまったよ。なかなか出来る事ではない。」
「一衛は……いつでも走って行って直さまを助けます。」
「そうか?今日のように、一衛が助けてくれるのか。」
「あい。」

一衛はきりりと口を引き結んだ。

「じゃあ、山女魚(やまめ)を取りに行っても、安心だな?滝壺は足がつかないから、いつも下流で魚を追うんだが、一衛が助けてくれるなら潜って捕まえてみようか。」
「……滝……?」
「川底に大きな口を開けたハンザキ(オオサンショウウオ)がいるかもしれないが、一衛がいるから平気だな。」
「……ハンザキが……だ、いじょうぶ……」
「……一衛?」
「一衛が直さまを……。直さまを……すん……」
「守ってくれるんだろう?」
「……ぁぃ。」

直正はくすりと笑った。
いつも一衛は年上の直正に後れを取るまいと必死なのだ。
同等の立場になりたくて懸命に背伸びをしているのを、いつもいじらしいと思っていた。
ハンザキというのは、オオサンショウウオの事で、口を開くと身の半分が裂けて見える事からそう言われている。
水中に身を潜めている時は、丸い頭で愛嬌のあるハンザキ(オオサンショウウオ)が、大きく口を開けたのを見てしまった一衛は、川底に小さなハンザキを見つけても怖くて足がすくんでしまうのだ。
直正はそれを知っていた。

「やはり滝に山女魚を取りに行くのは止めようかな。そうだ、一衛。川蟹の罠を覗きに行こうか?」
「蟹……?」
「実はね、一衛と行こうと思って、大きな魚籠に餌を入れて沈めてあるんだ。川の水が引いたら、一緒に見に行こう。野分(台風)の後は、大きな蟹が入っているかもしれないよ。蟹の煮つけは美味いからな。」
「一衛も好きです。」

先ほどまで半べそをかいていた一衛は、蟹を捕まえにいくと聞いて喜んだ。

「直さまが大きなはさみに挟まれないように、一衛が籠を持ちます。」
「竹籠は重いぞ。」
「一衛は、丘隅先生の所で鍛練していますから、だいじょうぶなのです。」
「そうか、丘隅先生の所に通っているのだな。では、頼むとしよう。」
「あい!」

近くに住む丘隅という年寄りが、お役御免になった後、私塾を開き子供たちを集めて書や和歌、剣術を教えているのを直正も知っていた。
会津では、日新館に上がる前、子供たちは寺子屋や私塾、素読書に通って学ぶ準備をする。直正も一衛の年には、素読書で学び城下の道場で剣術の稽古に打ち込んでいた。

「あ。母上だ……。」

中々帰宅しない一衛を心配して、母は外で帰りを待っていた。母の姿を見て、一衛の足が止まったのに気付いた直正だった。




本日もお読みいただきありがとうございます。

余り可愛いと、ちょっといじめてみたくなる直正なのでした。(〃゚∇゚〃) 「どう返事するか、ちょっと見て見たかった。」
(´;ω;`) 「……一衛は強いのです……くすん……」
母上に叱られそうです。  此花咲耶
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