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終(つい)の花 6 

群青色の陣羽織の銀糸が、端正な貴公子が立ち上がると、きらと眩く陽を弾く。

「頼母が言うのももっともだが、童にも何か仔細が有ったのではないか?話くらい聞いてやれ。」
「はっ。直正。若殿さまの思し召しじゃ。嘘偽りなく正直に言うてみよ。何しにここへ参った?父や叔父も参加する追鳥狩を、物見気分で覗き見に参ったか?」
「違います……決してそのような気持ちで来たのではありませぬ。」

直正は濡れた顔を上げ、ふるふると小首を振った。
父に殴られた唇の端が切れ、じんじんとする。
それでも優しい若殿さまの微笑みに励まされて、思い切って仔細を切り出した。

「若殿さま。皆さま。申し訳ございませぬ。従兄弟の一衛が……熱を出したのです。まだ二か月のややには、セリのしぼり汁がお薬なのです。お許しください。直正はセリを求めて野原を歩き回るうちに、うっかり追鳥狩の演習場に足を踏み入れてしまったのです。」
「一衛とは?」
「叔母上のややです。もう二昼夜も熱が引かず、苦しんでいます。直正は、一衛が可哀想で助けたかったのです。」
「そうか。おまえは、ややの為に薬草を探して居ったのだな?それはここ(大野ヶ原)に生えているのか?」
「はい。以前に摘んだことがございます。直ぐに探して帰るつもりでしたが、少ししか見つからずつい深く分け入ってしまいました。」
「赤子が待って居るのだな。」

容保が重ねて問う。

「はい。」
「そうか。あい、わかった。余の家臣ならば、弱きものは助けねばならぬ。幼くとも大した心根じゃ。者ども。」

はっと、脇に小姓が控えた。

「全軍に伝令を出せ。これから半時、狩りは休止に致す。皆で大野ヶ原中のセリを捜して本陣に運んで参れ。季節が違うても、これほど広い野原なら多少は見つかるだろう。」

直正は思わず涙ぐんだ。若い容保の思いやりのある差配がうれしかった。

「童。余の名は容保じゃ。そちの名はなんという?」
「相馬直正にございます。」
「覚えておく。直正、父の名は?」
「……父の名は、相馬源之助にございます。」
「おお、そちは源之助の嫡男か。」
「はい。」
「そうか。頼母!」

呼ばれた家老が走り出て膝を付いた。

「よいか?これ以上は決して叱るなよ。この者は赤子を救うため薬草を探して、うっかり迷い込んだのじゃ。わざとではないゆえ、此度は余が赦して遣わす。熱を出した幼い子供も、藩民ならば余の家臣であろう?違うか?」
「……む。仰せのとおりかと。」

小柄な家老は、苦虫を噛み潰した顔で直正を見つめた。

「よいか、直正。」
「はい。」
「例え、迷ったのだとしても追鳥狩を邪魔した言い訳にはならぬ。そなたのせいで、藩兵は無駄な時を使った。」
「……はい。」
「例え、若殿さまがお許しになったとしても、追鳥狩を邪魔したそちを、会津藩家老としては許すわけには参らぬ。ならぬことはならぬのじゃ。わかるな?」

直正は神妙に頭を下げていた。
決して、許されることではないのは子供心にもわかっていた。直々に藩主から言葉を掛けられるのも、異例の事だった。
それでも、直正は必死に家老に頼み込んだ。

「御家老さま。お願いがございます。」
「ん?」
「直正はいけないことを致しました。お仕置きされても仕方がないと思います。」
「うむ。殊勝な心がけだの。」
「でも、先にセリを届けさせてください。お叱りは、一衛にセリを届けたら、きっと受けます。」

ぺたりと手を付いて懸命に頼み込む直正に、容保は声を上げて笑った。

「頼母。その方の負けじゃ。小さくともさすがは会津武士の子じゃ。余が仕置きを考えてやろう。」

藩士が野原を探して集めたセリは、その場にうずたかく積みあげられた。

「獲物の入った籠を空にしてセリを詰めてやれ。直正に背負わせよ。」
「はっ。」

セリが詰め込まれた背負い籠は、直正の背丈の半分ほどもあり、子供の背には重く直正はよろめいた。

「よいか?このセリを早く届けてやるのだ。さすれば、追鳥狩場へ踏み入った事は不問に致す。籠は重かろう?出来るかな?」
「はい。必ず!若殿さま、ありがとうございます。御家老さま、皆さまもありがとうございます。」

直正は周囲に深々とお辞儀をすると、大きな籠を背負って家路を急いだ。
一衛が待っている。




本日もお読みいただきありがとうございます。

(`・ω・´) 「早くお帰り。」
(〃゚∇゚〃) 「若殿さま。ありがとうございます。」

(〃^∇^)o彡「一衛~!すぐ帰るからね~!」
ヾ(´・” ・`。)ノ 

なんとかお咎めなしで、家に帰れそうです。
良かったね。    此花咲耶


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