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小説・約束・9 

父親の友人の多くが、出征前に酒を提げ会いに来ていたから、彼等が軍医として戦場へ向かうことを良平は知っていた。
交わす言葉の端々に、残された者への思いを感じさせるのは酒のせいかもしれなかった。
一度、父に聞いてみたことがある。

「お医者様が、みんな戦争に行ってしまったら、病気の人はどうすれば良いのかな?」

「早く大きくなって、病気の人が困らぬように戦争をやめましょうと言うかい?」

「さっさと神風が吹いて、大勝利で終わらないかな~」

「う~ん・・・それは、どうかな。それじゃ喧嘩は終わらないな。」

他愛のない会話に、父の深い想いが込められていると良平には気がつかなかった。
軍医といえば、入隊と同時に軍医少尉殿と呼ばれる立場だった。
大病院からの誘いもけって、町の人のための病院をずっと守ってきた父親だったから、間違っても召集されることはないだろうと思っていたのに、戦局はそこまで逼迫しているのだろうか。
良平は、患者の目線にまで下がって、小さな子供や耳の遠い年寄りにも優しく話を聞く父を尊敬していた。
帰郷しても、小さな奉公人までが恐縮するほど偉ぶらないのは常と変わらなかった。
昔からいる、民さんという女中だけには子供の頃から頭が上がらないんですってと、良平は母に聞いた。

「ほら。あそこでお蒲団干している人。」

「へえ、そうなんだ。」

遠目に見た民さんは、まだずい分若く見えた。

「僕、後で民さんに色々聞いてみたいな。」

「お父さんの子供の頃の話とかさ。」

「そうね・・・」

元々、物静かな質の母が、この地に来てから余計に口数が少なくなったと思うのは考えすぎだろうか・・・
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