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漂泊の青い玻璃 55 

一つ分かってしまえば、後は芋づる式に全てが明らかになってゆく。
高校と琉生の名前を告げれば、探偵は難なく身辺調査をしてくるだろう。

美術教師を見送った寺川は、心づくしの贈り物を躊躇うことなく上機嫌にゴミ箱に叩き込んだ。
寺川は高揚した気分を押さえた。
鼻歌さえ歌いたい気分だった。

「しばらくは、好きにすると良い。自分の口から、俺の傍が良いと言わせてやる。……わがままも可愛いが、長く許す気はないぞ。失う対価が大きくなって結局泣くことになるんだ。もっとも……お前は泣き顔も良いんだがな……。しばらくは、羽を伸ばして自由を楽しめばいい。なぁ……羽をもいだら、どんな声で泣くかな。」

視線の先には、愛する妻の微笑む写真が有った。
加虐に喜びを覚える質ではなかったはずだが、深く進行している病のせいだろうか、寺川の中には、これまで微塵も見られなかった凶暴で猥雑な感情が生まれていた。
今は手元にいない妻が、自分の胸に縋って泣き崩れるのを想像し、寺川は微かに顔を歪めくくっと声を漏らした。

*****

琉生と兄達は、寺川が今も琉生を追っていると知らなかった。
数年経ってもリアクションが無い今、諦めたか、もしくは許す気になったんだろうかと、各自いい方に考えていた。
余りに楽天的な思考だが、尊は琉生が襲われたその場に居なかったし、隼人も自身の父親を、心の底では根っからの悪人だとは考えてはいなかった。
琉生を襲ったのも、病気がさせたことだと、二人はどこか安易に考えていた。
何度も引っ越しをしてさえ、束の間の平穏がいつまでも続くと、兄達は希望を持っている。

成長した琉生もまた、束の間の停戦を永遠と信じている哀しい戦地の少年のように、青い空が曇る日を想像していなかった。

寺川の手のひらで踊る彼等を襲う最後の嵐は、確実に近付いていた。

*****

「サクラサク」

「あった!」

新しい季節。
琉生は合格者番号を張り出した掲示板の前にいた。
すすむべき道を見つけた琉生は、輝いていた。
高校在学中から、すでに名のある賞を二つ手にしていた琉生は、在学中から通っていた予備校の美術講師の推薦を受け、第一志望の美術大学の合格内定と無返還の奨学金を手にしていた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)


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