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漂泊の青い玻璃 51 

隼人はアパートの近くまで帰って来ていた。

急ぐ隼人は、ふとどこかで、琉生の悲鳴を聞いた気がした。
嫌な予感に急かされて、走る。

「……琉生?」

普通なら難なく開くドアが、固く閉じられていた。

「琉生っ!!大丈夫か!」

外から叩く鉄の扉は冷たく、隼人は必死に合鍵を探った。
焦るばかりで、ドアは中々開かない。

「琉生っ!琉生っ、開けろっ!」

琉生を組み敷いた父は、激しく叩く音に、舌打ちをして立ち上がった。

「まったく。……無粋なやつめ。」

やっと扉を開けた時、寺川は押さえつけた琉生から手を離したところだった。
シャツを裂かれた琉生が、奥の部屋のカーペットに仰向けに転がっていた。
茫然としたまま、焦点の合わない驚愕の視線を、ゆっくりと隼人の方に向ける。
隼人の姿を認めて、琉生の顔がくしゃと歪んだ。

「琉生っ!?……親父、琉生に何をしたんだ……。」

合鍵を手にした隼人に向かって、すり抜けた寺川がふっと薄く笑いかけた。

「今回は運よく間に合ったな。だがな、いつか手に入れる。あれは、俺のものだ。お前たちにはやらん。」

それは、父親の視線ではなかった。
間違いなく「愛する女」を見る「男」の視線だと、隼人は思う。
父の心の病は決して、いい方向に向かってはいなかった。

「大丈夫か、琉生……」

隼人は琉生を抱き起こし、顔を覗き込んだ。
ぽろぽろと琉生の頬に透明な滴が転がる。琉生は唇を震わせた。

「は、隼人……兄ちゃん。ぼく……お父さんが……怖い……お父さんには……やっぱりぼくが、わからないみたい……」
「琉生……帰りが遅くなっちまって、ごめん。ちゃんと守ってやるって言ったのに、怖い目に遭わせてしまったな。怪我はないか?どこも痛くない?」

必死に労わる声に、心配を掛けまいとして琉生は顔を上げた。

「ん、大丈夫……驚いただけ。」
「そうか。怪我は無いんだな。」
「あ、ご飯のスイッチ、また入れてない……」
「ばか。そんなことは、どうだって良いんだよ。」

その一言に、絵に熱中する余り、また鍵も掛けていなかったのだろうと、想像する。
おそらく、鍵のかかっていない部屋に、父は一方的に容易く侵入した。

「琉生、シャワー浴びて来い。落ち着いたら、飯は外に一緒に喰いに行こう、な?」

こくりと琉生は頷き、風呂場に向かった。
隼人は琉生が風呂場に入ったのを確かめると、直ぐに部屋の外に出て兄に連絡を入れた。

「兄貴?今、話しても大丈夫?」
「何かあったのか?」
「緊急事態だ。琉生の所に、親父が来た。琉生は無事だったけど、俺の帰りがもう少し遅れたら、ただでは済まなかったと思う。」
「とうとう見つかってしまったか……仕事が忙しそうだから、しばらくは大丈夫だと思ってたんだがな。」

電話の向こうで、ため息を吐くのが聞こえた。

「それで、琉生は……?」
「一見したところ何ともない。怪我はないと思う。琉生は今、風呂場にいるんだ。だけど、親父が怖いって泣かれてしまったよ。取りあえず、今日はここに泊まるけど、兄貴……この場所はもう駄目だ。一日でも早く、引越しした方が良い。」
「そうか……それで親父の様子はどうなんだ?話をしたのか?」
「いや、まともな会話にはならなかったよ。あれは、完全に琉生をお母さんだと思い込んでいるな。というよりも、そう見えていると言った方が良いのかな。詳しく話するから、兄貴の知ってる看護師さんに聞いてみてよ。」
「何度かやり取りして話を聞いてもらったんだが、琉生を認知出来てないのは確かだと思う。心的要因って奴は症状も色々あるらしいんだが、そこだけが欠落している厄介なタイプなんだろうな。いっそ普段から症状が出るアルツハイマーとかなら、すぐにでも入院させられるんだが……。ともかく、部屋の方は、これからすぐ不動産屋に聞いてみるよ。」
「兄貴……あのさ。」

隼人は思い切って、自分の考えを打ち明けた。

「琉生にはまだ言ってないけど、新しい引越し先は兄貴の傍を考えてみてくれないか。」
「僕のアパート?」
「これから就活もあるから大変だろうけど、ちょうど琉生も高校に進学するじゃないか。近くに琉生に合った高校があるなら、いい機会だと思う。ほら、美術専攻クラスの有る所なら琉生にも勧めやすいし……とにかく少しでも早く、ここから離した方が良い。いつ、親父が来るかわからないからな。琉生は一人にならない方が良い。」
「僕は良いけど……県外だぞ。隼人は琉生に、会えなくなってもいいのか?」
「毎日、琉生に会えなくなるのは残念だけど、この際そんなことはどうでもいい。琉生に泣かれて、はっきりわかった。俺も琉生が可愛い。琉生が泣いてなかったら、親父を追いかけて行って思い切りぶん殴ってた。もし、琉生に何かあったら……絶対ただじゃおかない。」
「隼人ならやりそうだ。命拾いしたな。」

隼人の声が、ふっと低くなる。

「本気で護ってやりたいと思ったよ。今は俺が傍に居るけど、金曜になったら、なるべく早く琉生を迎えに来てやって。無事で良かったけど、もしこんなことがまた有ったら、こっちの方がどうにかなりそうだ。血が沸騰するかと思った……」
「わかった。アパートの件は僕が何とかする。また後で、話そう。琉生を頼む。」

二人の兄は、心から琉生を思い愛していた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

隼人兄ちゃんが間に合いました。
此花のこれまでのお話の進め方だと、たいてい事後に飛び込んでくるパターンかと思うのですが、すんでのところで救われる方が良いのではないかと、以前言われたことがあったので今回はこんな感じです。
ぼろぞうきんにならなくて、よかったね、琉生くん。♪ψ(=ФωФ)ψ

。・゚゚ ’゜(*/□\*) ’゜゚゚「え~ん……もうちょっとで、ぼろぞうきん~……」
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+「大丈夫だ、琉生。俺がきっと守るから。」「うん……」


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- 2 Comments

此花咲耶  

けいったんさま

> ∋=(^0^)=∈ セーフ!
> 此花さまが「後書き」で書かれてた様に 今回も絶対に d (>◇< ) アウト!だと思ってました。

(*/∇\*) キャ~、やっぱりそう思われてた~!でも、今回は違うのでっす!(`・ω・´)

> 隼人~でかした~!(#*--)ヾ( ̄▽ ̄*) ナデナデ、 エライエライ♪
>
> しかし 美人だった母親に似た事が こんなことになるなんて…

[壁]ω・)……楚々としたタイプです。お絵かきできてないけど。
>
> で、私、考えてみたんです!
> 珍獣ハンターのイ〇トちゃんのように ゲジゲジ眉毛にして イメチェンしてみたら 寺川も 目が覚めるんじゃないかと。
> (o^-^o) 変身~!→ パッ♪ヽ(━∀━)ノ...byebye☆

(*つ▽`)っ)))アハハハ☆おかしい~!爆笑してしまいました。

Σ( ̄口 ̄*)「み……美和……?」
(━∀━)ノ「ども。弘樹さん。美和でっす。」

駄目だ~~!おかしすぎる。
コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃) ←しわが増えた……

2014/08/11 (Mon) 20:53 | REPLY |   

けいったん  

∋=(^0^)=∈ セーフ!
此花さまが「後書き」で書かれてた様に 今回も絶対に d (>◇< ) アウト!だと思ってました。

隼人~でかした~!(#*--)ヾ( ̄▽ ̄*) ナデナデ、 エライエライ♪

しかし 美人だった母親に似た事が こんなことになるなんて…

で、私、考えてみたんです!
珍獣ハンターのイ〇トちゃんのように ゲジゲジ眉毛にして イメチェンしてみたら 寺川も 目が覚めるんじゃないかと。
(o^-^o) 変身~!→ パッ♪ヽ(━∀━)ノ...byebye☆

2014/08/11 (Mon) 08:16 | REPLY |   

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