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漂泊の青い玻璃 50 

しばらく何もなかったから、油断していたのかもしれない。
招かれざる客は、琉生が一人で過ごす夕刻、唐突に現れた。

尊がいつか心配していたように、琉生が一人の時間だった。買い物を済ませ、イーゼルの前に腰掛けて集中しようとした時、ノックの音に気付いた。
「ん?隼人兄ちゃん?」

ゆっくりと古いノブが回転するのを、振り向いた琉生は、不思議とも思わず見つめていた。

「久しぶりだな。元気そうじゃないか。」

微かに笑みをたたえた寺川の姿に、思わずコンテを落とした琉生は兄達からの忠告を忘れていた。
隼人にあれほど言われていたのに、玄関の鍵を掛けていなかった……と思い出す。

「お……父さん……」
「鍵も掛けずに不用心だな。入ってもいいか?」
「あの……出来たら外で……」
「そんな顔をするな。話をしに来ただけだ。」
「……はい。」

寺川は部屋に入ると、不遜に笑を浮かべ後ろ手に内側から施錠した。

「あ……鍵……」

硬質なカチリという音に、琉生の心臓が跳ねる。
突然訪問してきた父の、真意を測りかねていた。

「尊と隼人はいないようだな。頻繁に来るのか?」
「う……ん。」
「そろそろ、家に戻ったらどうだ?」
「それは……あの、前に尊兄ちゃんが話してくれたと思うけど……ぼくはもう、一人で暮らした方が良いと思うんだ。お父さんには、アパートの家賃も払ってもらっているし、感謝しているけど、もうやりたいことを見つけたから、ここでこのまま暮らしたい……です。」
「帰るつもりはないということか。なるほど。おまえは寺川の家と縁を切るつもりなんだな?」
「……」
「尊や隼人とも、もう関わるつもりはないということか?」
「え……っ?そんなつもりは……」
「おまえが家を出るという事は、そういうことなんだろう?そういうことなら仕方がない。今後一切、寺川の家の者との付き合いは絶って貰おう。尊と隼人とも会わないでくれ。関わりを断つとは、そういうことだ。当然、お前の戸籍も抜くことになる。晴れて自由な天涯孤独の身というわけだ。」
「そんな……!」

琉生は思わず椅子を倒して立ち上がり、絶句していた。
寺川は琉生の反応を見て、片方の口角を上げた。

「話はそれだけだ。」
「ま、待って!」
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「尊兄ちゃん達と会えなくなるのは、いやだ……っ。」
「……我儘なやつだな。あれもこれも嫌では、こっちには折り合いをつける術がないじゃないか。」
「お父さん、ぼくはっ……」

寺川は琉生に近付くと、髪に触れた。

「伸びたな。すっかり元通りになった。乱暴をして悪かったな。」

琉生は父を見つめたまま、その場にぺたりとへたり込んだ。
狂気の瞳に、琉生は射すくめられて動けない。家を出てもう一年半も経つのに、父の病気は少しも改善されていなかったと知る。

伸ばされる寺川の手に、思わず怖気て逃げようとした琉生は、背後から腕を絡め取られて悲鳴を上げた。
足をすくわれて、琉生は床に転がった。
寺川の膝が背中に乗り、全体重を掛けると渾身の力で押さえつけられた。
腕の骨が軋む。

「あーーーっ!」
「どうして、お前はいつも逃げようとするんだ。」

寺川の顔が近づく。
襟元から一気に、制服のボタンが飛んだ。

「!……お父さ……ん……やだ―っ!」

寺川の目には、清楚な妻が小さく声を上げて恥らう姿が映っていた。
交差した腕は、浮いた胸骨に伏せた椀型の、白く零れる乳房を隠していた。
初めての夜、全身を染めて妻は自分の名を呼び、甘い息を吐いた。

これ程、愛おしい生き物がいるだろうかと、再婚相手を前に寺川は息を詰めた。
裏切られた後、もう二度と女性を愛せるとは思わなかった。
過去の不幸な結婚が、新しい伴侶を前にしても直、寺川を臆病にさせていたのかもしれない。

「弘樹さん……」

傷ついた自分を励ますように、細い指を思い切って伸ばし肩を抱いた、愛おしい妻。
あの日からやっと、寺川は前を向けた。
愛する美和が、自分を拒むはずなどない。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

♪ψ(=ФωФ)ψ琉生くん、だいじょうぶ~?
。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。うわ~ん……

どうやら琉生は鍵を掛けていなかったみたいです。
妻を愛する寺川パパには、琉生がこんな風に見えてるのです……ちょっと悲しいね。
[壁]ω・) 間に合うかな……?


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