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漂泊の青い玻璃 48 

ふと、隼人は琉生の絵に目をやった。
壁際のイーゼルに立てかけられた絵には、覆いが掛けられていた。

「琉生。この絵って、どこかの美術展に出すやつ?」
「そうだよ。顧問が好きなものをいっぱい描いて、多くの人に見て貰いなさいって言ってくれたんだ。本当は、デッサンとか基礎をもっとやらないといけないけど、学校の勉強もおろそかにしてたら大学通らないから、どっちも頑張るんだ。」
「両方頑張れって、先生がそう言ったのか?」
「尊兄ちゃんが。偏差値は大事だって。」
「そうか。俺は勉強はからきしだから、そういう事は兄貴に頼れ。他に独り暮らしで困ってる事は無いか?」
「何も無いよ。お昼は給食だし、朝ご飯は簡単だし。好きな絵を描いてても誰も何も言わないし、毎日すごく幸せ。」
「そうか、それなら良かった。」

琉生を見つめる隼人の視線は優しい。
毎日、琉生のアパートを訪ねて時間を過ごすのが、隼人にとっても心地よい時間になっていた。
誰かが自分を待っている家に帰るのは、それだけで明るい気持ちになる。
実家に帰れば、以前よりも寡黙になった父は書斎に殆ど引きこもったままだ。
話をしようにも、扉は固く閉ざされていて、隼人はいつしか父との会話を諦めた。

「琉生、親父の事なんだけどな……」

琉生の顔が、わかりやすく硬直する。

「う……ん。何か変わった事あった?」
「何も無い……というよりも、以前にもまして部屋から出て来なくなったんだ。仕事はしているようだから大丈夫だとは思うけど、一応は琉生も気にしておいた方が良いと思ってな。このアパートの事は教えてないけど、念の為に部屋の鍵は掛けておけよ?今日も開いてたぞ。」
「……そうする。」
「俺が来るのは、夜遅いからな。兄貴も琉生が一人になる時間を心配しているんだ。病気が進行していたら、強制的に病院に隔離する方法もあるけど、今がその時期かどうかはわからない。様子見ってところだ。」
「ぼくもね、たまにお父さんの書いた雑誌の記事を読むよ。立ち読みだけどね。」
「今は追憶のサマラ戦記って言う、ロボットアニメに関わっているみたいだ。ライターが原案を提供したって、ネットでもちょっと話題になってた。知っているか?」
「うん。確かね……子供向けのドラマのように見えるが、この話は決して単純ではない。時空を超えた深い愛がテーマだ……って、一話を見た人が感想を書いてたよ。続きが気になるって。評判良いみたいだね。」

琉生は父が参加したアニメを知っていた。
離れて暮らしていても、気になっているのだろうか。
琉生は知らないが、自宅には常に何冊もの雑誌が送られてくる。
隼人は、父のインタビュー記事を思いだした。
珍しく書斎に人を入れ、インタビューに応じていたのが不思議で覚えていた。寺川は、珍しく上機嫌で、饒舌に語っていたようだった。

『主人公の少年について?そうだな、私はあえて、強い主人公を作ろうとは思わなかった。不遇な境遇に育った主人公は、むしろ世間を恨み醒めているんだ。天涯孤独になった理由はいくつもあるが、スラム街で恋人を失った不幸な事件が自分以外誰も信用できないという、人生観になっている。
だから、主人公が、命をかけて戦うのは約束された地位や名誉の為ではないんだ。
ましてや、周囲にいる縁もゆかりもない人々や国の為でもない。孤独な彼には、そう言った物には一切興味が無いんだ。
それじゃ、闘う理由はどこにあるのかって?
そうだな。主人公は、過去に囚われている。過去に愛してくれた人が、姿を変えて傍に居るのを感じているんだ。彼は愛する者の思いに報いる為に、命の限り闘う……いつか再び、抱きあえる日の為にね。そう思うだけの理由があるんだが、そこはネタばれになるのでね、作品を見てくれればわかると思う。
私はね、永久不変なものは世の中にあると思っている。
永遠の恋人という表現は、いささか陳腐ではあるけれど、間違ってはいないと思うね。主人公は、いつか真実の愛を手に入れるんだ。思いがけない形でね。
そして、二期では完璧なロボットに搭乗することになるんだよ。』

狂気と正気の狭間にいる父の思いを聞いて、隼人は今も変わっていないと感じた。
琉生には、できれば記事を読ませたくないと思った。

琉生は素直に、世間に評価される父の仕事を喜んでいるようだったが、隼人と尊には答える父の心の中に巣食う闇が、映像となって結実するのを見る思いだった。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

半分忘れそうになっていましたが、寺川の仕事はライターです。
今、どういう風に過ごしているか、少し触れておきます。



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