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漂泊の青い玻璃 39 

回された手に力がこもった。

「電話しようとしたんだってな。僕に電話を掛けようとしていたみたいだって、聞いた。」
「ん……僕、尊兄ちゃんには、居場所を言わなきゃって思ったんだ。でも、何か急に頭がぐるぐるして、立っていられなくなった。」
「そうか……きっと、雨に当たったのとショックで熱が出たからだ。もう、平気か?寒くない?」

琉生はこくりと頷いた。

「看護士さんが、濡れた服をランドリーで乾かしてくれたから……」
「この絵は琉生のお父さんが描いたんだって?ついさっき教えてもらったんだけど、とても温かい絵だな。じっと眺めていると、琉生と出会った頃を思い出して、何だか泣けて来たよ。」

琉生は腕の中から、尊を見上げた。光りを集めて黒い瞳が揺れる。

「お母さんが、亡くなる前に内緒で教えてくれたんだよ。一枚だけ、お父さんが残した絵があるから、見ていらっしゃいって……大学に入る前、お父さんと尊兄ちゃんのアパートを探しに行ったでしょう?あの時だよ。独りで初めてこの絵を見たんだ。」
「ああ、あの時か。親父に神社のお守りを買って来てくれなんて、お母さんが珍しく頼みごとをした時だ。」
「そうだよ。この絵の事だけは、ぼくに言っておきたかったって。スケッチブックもあったんだけど、お葬式の後でお父さんが捨ててしまったんだ。ああいうのって、サインがあるでしょう?大槻って名前が書いてあるものを持っていたのが、許せなかったみたい。ぼくには、形見みたいなものだったんだけど……でも、いいんだ。この絵があるから。時々、会いに来るよ。」
「親父はお母さんに、自分の方だけを見て欲しかったんだろうな。子供っぽい独占欲だと思うけど、誰よりもお母さんの事だけを愛していたんだ。それだけは分かってやってくれ。」
「うん……でも今は、家に帰るのが……ちょっと怖いよ……お父さん、ぼくのことお母さんの名前で呼ぶんだ。……美和って……」

言い難そうに、そう口にした琉生がどれほどの勇気をもって打ち明けたか、尊には十分すぎるほどわかっていた。

「そうか……。違う名前で呼ばれたら驚くよな。でも、僕と一緒に一度家に帰ろう。僕が傍に居て、琉生を一人にはしないから。琉生は未成年だから、家を出るにしても話だけは通さないと。それにね、さっき看護師さんに色々と相談に乗ってもらったんだ。だから、まず親父に話をしてみるよ。それで、いいか?」
「話……って。何の?」
「親父に病院へ行こうと言ってみる。自分で向き合うしかないと思うんだ。少しは、自分の異変に気付いていると思うし、このままじゃ琉生も親父も不幸だ。」

尊の話に、琉生はやっと穏やかな表情を浮かべた。
青ざめた頬にいつもの笑顔を浮かべた琉生に、尊は思わず唇を寄せていた。

「心配するな。僕が傍に居る。だから、もう琉生は何も怖がらなくていいんだ。辛いことは一人で抱え込まずに、何でもちゃんと言うんだよ。」
「うん。わかった。」

琉生がやっと浮かべた明るい表情にほっとする。

「……あのね。お父さんが無理やりするキスは苦い煙草の味がして、ぼく好きじゃなかった。」
「えっ……?」
「もう、何もしなくていいんだね。良かった……!」
「琉生……?」

凍りついた目で、思わず尊は琉生を眺めた。
肌がぞわりと粟立つ。
尊の知らないうちに、父親がどんな行為を琉生に強いたか、鈍器で強く後頭部を殴られた思いだった。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)

(°∇°;) 「る……琉生……?」
(´;ω;`) 「……」


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