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漂泊の青い玻璃 34 

尊と隼人は、父の言葉を待っていた。
しかし、父の口を突いて出たのは、予想もしない言葉だった。

「仕事ばかりで構う暇がなかったから、それほど親として関わってはいないが、美和には大切な子供だった。」
「だった……?」

しっ……と尊が、隼人を視線で制した。

「お前たちも、美和の力になってやってくれ。あれは、子供を失くして心底参っているんだ。だから妙なことを口走るし、この間なぞは突発的に俺の手を振り切って、二階の窓から飛び降りようとしたんだ。」
「親父……っ。琉生に何を……っ……」
「隼人!話は後にしよう。お父さんも仕事があるんだから、邪魔をするのは良くない。それにもう夜も遅いし、僕達は飯でも食おう。」
「兄貴!何を悠長なことを……!」
「いいから!来い!」

尊は隼人を引きずるようにして、何とか部屋を出た。
どうやって父親の部屋から出て、居間に戻ったか尊も隼人も覚えていない。
顔色を失くしたまま、二人は力なくソファに座り込み、言葉を発しなかった。
まるで適当な言葉が見つからない。
父と琉生の間で何が有ったのか、背筋が凍る思いだった。

一見まともに見える父親の人格が、少しずつ崩壊しているのを、息子として認めるのが辛かった。
しかも隼人は、こうなるまでの詳しい話を聞いていなかった。まるで寝耳に水の衝撃は大きい。

「まさか、ここまで酷くなっているとは思わなかった。琉生も電話では平気そうだったし……」
「俺は知らないぞ。どういう事だよ。前にも二階から飛び降りようとしたって言ってたぞ。琉生に何をしたんだ、親父……」
「それより今は……取りあえず……琉生を探さないと。きっと……」

どこかで泣いている。そう、同時に心で呟いた。

「琉生……どこかで雨宿りしてればいいけど。」
「どこに行ってしまったんだろうな……。」

冷たい雨が、見つめるガラス窓を流れてゆく。
夜半過ぎから氷雨が降り始めていた。

*****

琉生はパーカーのフードを深く被って、雨の街をあてもなく彷徨していた。
どれ程歩き続けたか分からない。
裸足で飛び出したきり、どこにも行く当てはなかった。付き合いの悪い琉生には、それほど親身になってくれるような友人もいない。

時折鳴らされる、激しい車のクラクションに、うっかりと車道を歩いているのに気付き、歩道に戻った。
やがてポケットに小銭が有ったのを確かめ握り締めると、琉生は駅に向かった。

「足りるかな……」

大学病院のロビーにある、父の絵を見ようと思った。
そこに行けば、きっと救われる気がする。
強い雨のおかげで人通りはほとんどなく、靴を履いていない琉生の姿を、道行く人が不躾に眺めることはない。

しっとりと冷たい雨に打たれた琉生は、やっと大学病院の夜間通用口にたどり着いた。
守衛室の男が、訝しげな目を向ける。琉生のただならぬ様子に、身内の容体が急変でもしたのだろうかと気を回したようだ。

「そこのノートに、名前だけ書いて。行って良いよ。」
「あり……がとうございます。」

頭を下げて、そのまま琉生はロビーへと向かった。
呼ばれるように、ひき寄せられるように、琉生は父の絵の前に立った。

『琉生』

両親の眼差しが、ゆりかごに眠る赤ん坊に注がれている。名前を呼ばれたような気がした。
思わず手を伸ばし、絵に触れて微かな温もりを得ようと思ったが、パステルの絵は硝子板に閉じ込められていた。

『どうしたの?』

「お母さん……。寺川のお父さんは、お母さんが傍に居ないと駄目なんだ。」

「……お母さん……お父さんの中に、ぼくはどこにもいないんだ。消えちゃったんだよ……死んだのは、お母さんじゃなくて……ぼくなんだよ……」

ひくっと、嗚咽が零れた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)

何だかとっても可哀想な展開になってきました。

(´・ω・`) 「琉生……どこに行ったんだ。」
(つд・`。)・゚「尊兄ちゃ~ん……」


[壁]ω・) すまぬ~、もう少ししたら会えるからね。←


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