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漂泊の青い玻璃 26 

尊の進学は、すんなりと許された。

家を出てゆくことにも、父は別段難色を示さず、母だけが心配そうだった。

「まあ、若いうちは何事も経験だ、家を出て自炊するのもいいだろう。やりたいことが見つかったのなら、後の事は気にしなくていいから、好きにしなさい。」
「はい。次の土曜日にでも、下宿先を探そうと思ってます。」
「そうか。来月になったら込み合うだろうから、早いほうが良いだろうな。」
「あなた。最初は色々買い揃えるものもあると思うし、不動産屋さんとの契約は大人がいた方が良いと思うの。朝早く行けば、日帰りで帰ってこれると思うから、一度一緒に行ってあげて。」
「その位の事は、尊なら一人でも……家具付きの物件を借りれば済むだけの話だ。君が一人になってしまうだろう。」
「いくら尊君がしっかりしていても、賃貸契約は未成年にはどうかと思うの。最初は心細いこともあるだろうし。本当ならわたしが行きたいけど、無理だからお願いします。土曜日は家政婦さんはお休みだけど、今は体調もいいし、琉生もいるから大丈夫よ。」

母は、寺川の事を良くわかっていた。

*****

自分の頼み事は、寺川は断らないと知って、あえてねだった。

「弘樹さん。あのね……わたし、欲しいものがあるの……」
「なんだ?」
「帰りにお守り買って来て欲しいの。尊君の行く大学の近くにある鷺宮神社のお守り……霊験あらたかって、週刊誌にあなたの記事に書いてあったのを見たの。神頼みなんておかしい……?」
「そんなものが欲しいのか?そんなもの位、いくつでも取り寄せて……」
「あなたに……弘樹さんに、ちゃんとお参りして貰って来てほしいの。……待ってるから……」
「分かった。今日中に編集部と打ち合わせを済ませて、早めに入稿しよう。土曜日は尊と出かける事にする。」
「ありがとう……。」
「出来る限り早く帰って来る。」
「ええ……そうして。」

寝台に沈み込む美和は、懸命に薄く笑顔を作った。
尊と夫を送り出した後に、美和にはほかにもう一つ思惑が有った。

亡くした夫が残した絵を、琉生に見せてやりたかった。
尊と寺川の父が揃って出かけたのち、母はある場所を琉生に教えた。

*****

「琉生。独りでも平気?すぐ傍まで電車があると思うけど、乗換は大丈夫?」
「平気だよ。お母さんと違って、ぼくは方向音痴じゃないからね。尊兄ちゃんとCD買いに行った本屋の近くに、駅があるから大体わかる。お父さんたちが帰って来るまでに、戻って来るよ。」

数時間後。
琉生は母に書いてもらった地図を頼りに、一人で大学病院の広いロビーにいた。
午後は診察が無いため、閑散としている。
普段なら受付嬢の座っている場所から見上げれば、背後の広い壁にその絵はあった。

「……わぁ……。」

琉生のちょうど頭の高さに100号くらいの、大きな絵がある。
琉生には一目で、それが父が描いたものだと分かってしまった。曖昧な記憶の底に、微かに見覚えが有った。
小さなプレートに『愛し子の見る夢』とタイトルが付記されてあった。
近付けば、Otukiと、ローマ字のサインが読み取れる。

「こ……れ、お父さんの絵だ。」

とくん……と、胸が音を立てた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)

(〃゚∇゚〃) 「お父さんの絵だ~」

一体、どんな絵を残しているのでしょうか。
今後の琉生に、深くかかわってくるのです。 (´-ω-`)


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