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漂泊の青い玻璃 16 

母は胸騒ぎを感じた。
隼人は俯いたきり、顔を上げなかった。

「あの、お隣の奥さま。……隼人君が何か……?」
「あら、寺川さん、いらしたのね。何でもないのよ。前の奥さんと、わたし達仲良しだったから、今どうしているのかと思って話を聞いたのよ。でも、隼人君は知らなかったみたい。お邪魔しました~。」
「いえ……」
「そのうち、お茶でもしましょうね。寺川さん。」
「はい、よろしくお願いします。」

琉生の母親は、そそくさとその場を後にする彼女たちの中に入ると、際立って美しかった。
彼女たちにはそれも不愉快だったのかもしれない。

一戸建ての寺川の家は、住宅地に建てられた家の中でも一際目を引く。
二軒分の広い敷地に建った家は、寺川が友人の建築家に頼んだ個性的なもので、洒落た門扉をくぐると、庭にはイタリアから取り寄せたテラコッタのデザインタイルが敷き詰められている。
自分達には手に入らない生活に向ける、隣人の羨望の視線が、いつか妬みに変わったとしても琉生にも母親にも分かるはずもなかった。

「隼人君、大丈夫?あの人たちに、何か言われたの?」
「……別に何も言われてない。」
「でも、顔色が良くないわ。何かあったのなら、わたしに話し……」
「うるさいな。何でもないって言ってんだろ!」
「隼人君……」

*****

その日以来、隼人の心の奥深くに刺さった棘は、時間が経っても抜ける事は無かった。
隼人は言われた言葉を、何度も一人で反芻した。
本当に隼人の母親は、琉生の母親のせいで出て行ったのだろうか。
近所の人が言うのが真実なら、琉生と琉生の母親がこの家にいるから、実の母親は帰る気になっても帰れないのかもしれない。
何の根拠もない言葉に、隼人は翻弄されていた。

何故なら隼人は、自分に何も告げずに出て行った華やかな母親を、未だに憎み切れずにいた。隼人はいつか帰って来るのではないかと、ずっと叶わない希望を抱き続けていた。

ずっと弟が欲しかった隼人は、心無い大人たちの言動をきっかけに、琉生への興味を失った。その日から、隼人は人が変わったように、あっさりと琉生の相手をしなくなった。

「隼人兄ちゃん。琉生くんとサッカー……」
「うるせぇな。忙しいんだよ。」
「テレビ見てるじゃない。」
「あっち行けよ。うっとおしいな。」

そんな風に、まとわりつく琉生に冷たく当たるようになった。

「お母さんは帰って来るつもりだったのかな。」
「もしかするとお母さんは、この家に入り込んだあの女を見てしまったのかもしれない……」
「あいつらが出て行けば、帰って来るかも。」

隼人の中で、日を追うごとに二人が許せない存在になってゆく。
棘はきりきりと深く心に立ちこんで膿を持ち、繊細な隼人を傷つけていた。
隼人は家の中でも、血を流しながら孤独だった。
食事は共に取っていても、家族と交わす口数は極端に少なくなった。
美和は隼人の変化を心配したが、なさぬ仲でもありどうしようもなく手をこまねいていた。

頼りになる尊は、勉強が忙しくなり、塾通いで帰宅時間が遅いため隼人の様子に気付かなかった。
思い詰めた美和が、夫に相談を持ちかけても「子育ては君に一任すると言っただろう。うまくやってくれ。仕事が忙しいんだ。」と、言ったきり、自室にこもり締め切りのある仕事に没頭していた。
寺川はライターとしては、映画の評論などもこなす売れっ子だったが、残念ながら家庭人としては不完全で、一度手に入れた家族に対する思いやりは持っていなかった。
琉生は相談相手にするには余りに幼く、家庭の中で美和もまた孤独だった。
間違った結婚をしてしまっただろかと、美和も悩んでいた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

隼人は深く傷ついています。(´・ω・`)
♪ψ(=ФωФ)ψお~ほっほほ……


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