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漂泊の青い玻璃 7 

尊の首に必死にしがみついて、琉生は頭の中のドーベルマンを追い払おうとした。

「隼人っ!いい加減にしろよ!」
「ば~か!ちび琉生の泣き虫。がう~っ!」
「うわ~~~~あぁ~ん……」
「よしよし……琉生。大丈夫だ。後でお兄ちゃんが隼人の事、ちゃんと叱っておくからな。近藤さんちのドーベルマンは、琉生の事を噛んだりしないよ。」

尊はしゃくりあげる琉生の背中を、ぽんぽんと宥めるように撫でた。

「ひっ……っく……ほんとう?」
「ああ。ドーベルマンは軍で飼うような犬だから、すごく賢いんだ。ちゃんと人を噛まないように訓練されているから大丈夫。怖くないよ。」
「う……ん……」

琉生は涙を拭いた。尊の言う事は何でも本当だと琉生は思っている。
いつでも尊は、琉生の味方だった。

「琉生。涙が止まったら、おにいちゃんと遊ぶか?ゲーム好きだろ、僕の部屋に持ってくる?お誕生日に何を買ってもらったんだった?」
「ぴ……ぴかちゅう……」
「ポケモンか。じゃあ、お風呂の時間まで一緒に遊ぼうか。ゲーム持ってお兄ちゃんのお部屋においで。」
「うん……」

膝の上に乗ってゲームに興じながら、大人びた尊と共に居ると、まるで亡くなった父親と接しているような気になる。
琉生は新しく出来た家族の中で、尊が一番好きだった。
大槻の父と違って、部屋に閉じこもり自分の部屋で仕事をする新しい父親は、仕事が進まないときは少しの物音にも苛々と神経質に怒鳴る。
執筆が進まないと機嫌が悪くなり、居間で静かに絵を描いているだけの琉生のクレヨンを、わざと蹴ってゆくこともあった。五年生の隼人は、時々そんな父親に似ている。最近は特に意地悪で、琉生は二人の顔色をうかがった。
中学二年生の優しい尊と母がいたから、我慢できた。

「あれ……琉生?眠いの?」
「ん……尊兄ちゃん、琉生くん……ねんね……。」

琉生は尊に寄りかかって、いつしか寝息を立てていた。

「泣いたから眠くなっちゃったんだな。琉生の事は、おにいちゃんが守ってやるからな。あ、おへそ丸見えだ……可愛い。」

ちゅと尊は、琉生の涙の跡に唇を落とした。
ぽろりと大切なゲーム機が、布団の上に転がった。

*****

尊は琉生を抱き上げ、洗い物をする母親の所へ行った。

「お母さん、琉生が眠っちゃったんだけど、どうしよう。」
「あら……ごめんなさいね。琉生は尊君のお勉強の邪魔をしたのかしら。」
「ううん、そんなことないよ。ちょうど息抜きをしたかったから、ゲームをしようって僕が誘ったんだ。お風呂は明日の朝シャワーしたのでいいかな。」
「そうね。琉生は尊君が大好きみたい。ほら、尊君のシャツをぎゅって握ってる。」
「ほんとだ。ふふっ、琉生の手は小さくて、えくぼがあるね。どこもみんな小さくて可愛いね。」
「尊君。いつも琉生に優しくしてくれてありがとう。」
「ううん。僕は琉生の事大好きだから。時間があればもっと遊んであげたいけど、さすがに受験勉強があるから……このまま、僕のベッドで寝かせてしまって良い?」
「部屋に連れて行くわ。尊くんは、お勉強があるでしょう。……ほら、琉生いらっしゃい。」

母は、尊の腕から眠った琉生を受け取った。
眠ってしまった琉生の体温が腕の中から消えて、冷たい風が吹いた気がする。
自分を慕う小さな弟を、愛おしく思う尊だった。

「あの……隼人は反抗期みたいで……琉生を時々泣かしちゃうし、お母さんにも乱暴な口をきいてすみません。」
「心配しなくても大丈夫よ。ご近所の噂を聞いて割り切れない気持ちがあるのは、わたしにもわかるから。隼人君はきっとお母さんのことが大好きだったのね。わたしがこの家にいると、二度と会えないような気がするんじゃないかしら。」
「僕は二度と母に会う気はありません。隼人だって心の中では、本当は捨てられたって分かっているんです。でも、きっと認めたくないんだと思います。だから、きっと琉生にも八つ当たりするんです。」
「わたしと琉生は大丈夫よ。尊君も、わたしに言いたいことが有ったら我慢しないで言ってね。」
「はい。じゃあ……これからもよろしくお願いします。」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
「それと、隼人はカレーよりもハヤシライスの方が甘くて好きなんです。だから、作ってやってください。あいつ、きっと機嫌が良くなるから。」
「そう。じゃあ明日はうんと甘いハヤシにするわ。隼人君の好きな物、たくさん教えてね。尊君の好きなものもね。」
「僕はオムライスが好きです。琉生も好きだって言ってたから、そのうち作ってくれる?」
「オムハヤシはどう?オムレツにデミグラスソース。ふわふわの卵のタンポポオムライス、美味しいわよ。」
「それ、すごくおいしそう。」

翌日、完食した隼人は黙って皿を突きだし、お代わりをよそう母親はうれしそうだった。
尊と母は、こっそり目配せをした。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
大きな犬が怖かったちび琉生くん。尊兄ちゃんの膝の上で眠ってしまいました。

(*⌒▽⌒*)♪ 「琉生くん、お兄ちゃん好き~」
(〃ー〃) 「琉生、かわいい。」


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