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漂泊の青い玻璃 6 

12年前、母は琉生を、寺川は男の子二人を連れて再婚した。

新しい父は、若い妻に逃げられ男手ひとつで二人の息子を育てるのに苦労していた。家政婦を雇うことは思い至らず、周囲も勧めなかったらしい。
琉生の母は経済的に追い詰められ、心身ともに疲れ果てていた。
互いに利害の一致した再婚だったと言える。

しばらくは互いに気を遣い合っていた。
新しい父は文筆業を生業にし、殆ど自室にこもって仕事をしていた。
職業のイメージ通り腺病質な男で、収入は良かったが、一度妻に逃げられたことを引きずっているせいか、新しい妻に執着し傍から居なくなることを極端に嫌がった。
再婚後は、短時間の自由な外出にも難癖をつけた。夕食の買い物に出るのさえ、時間や場所をしつこく問いただしたりもする。
美和は束縛されるのは好きではなかったが、前の結婚で傷ついた夫の心情を知ると割り切ることにした。
夫は傍にいさえすれば機嫌も良く、大抵の物はネット通販で何とでもなる。琉生の将来を思うと、新しい家族は必要だった。

父の連れ子、琉生よりも7歳上の長兄、寺川尊(たける)は初めて会った時から、琉生にとても優しかった。
実の母親が出て行った理由を、尊は知っていた。
琉生の母にも気を遣い、小さな弟の手を引いて自分から買い物に出るような少年だった。
琉生は優しい尊が大好きだった。

次兄は隼人(はやと)と言った。
やや感情の起伏の激しい少年で、多感な時期に母親が出て行ったことが深い傷になっていた。
最初の出会いの時からしばらく経ったころ、心無い隣人の告げた話を耳にして以来、心を閉じた。
ある日を境に、ねめつけるような燃える視線で、隼人は新しい母親の背中を睨みつけていた。
実母が出て行った理由の一端が、琉生の母親ではないかと吹き込まれ、誤解したようだ。
事あるごとに隼人は、母親のいないところで琉生にも意地悪く接した。
隼人の誤解が解けるのには、かなりの時が必要だった。

*****

「なあ。おまえの母ちゃんは、おっぱい丸見えのドレス着て、キャバクラとかで水商売をやってたんだろ?おれらのお母さんを追い出して、財産目当てでお父さんと結婚したんだろ。隠したって、知ってるんだからな。」
「琉生くん……わかんない。お母さんは毎日スーパーのお魚やさんでお仕事していたよ。」
「嘘つけ。おまえのお母さんみたいなの、泥棒猫って言うんだぞ。近所のおばちゃんが言ってたからな。泥棒の子供も泥棒だ。」
「琉生くん、どろぼうじゃないもん。琉生くんのお母さん、マルイ・マートでお仕事してたもん……えっ……ん……」

めそめそと泣き始めた頃、尊が気付いてやって来て、隼人を叱ると琉生を抱き上げた。

「隼人。また琉生を泣かして。」
「うっせ~。」
「お母さんは自分で出て行ったって、ちゃんと隼人に本当のことを話しただろう?お父さんと上手くいかなくて、毎日喧嘩ばっかりしていたの、隼人だって知っているじゃないか?出て行ったお母さんの事で、琉生に八つ当たりするな。琉生は僕らのお母さんの顔も知らないんだぞ。」
「なんだよ。みんな嘘つきばっかりだ。兄貴だって、そんなちびばっかり構いやがって!ばかっ!」
「琉生はまだ一年生になったばっかりなんだぞ。隼人は同じ小学校なんだから、ちゃんと面倒見てやれ。お兄さんだろう?」
「ちびの泣き虫なんぞ、知るかよ。近藤さんちのドーベルマンに噛まれっちまえ。」
「……ぅわ~ん。」

琉生は、とうとう火が付いた様に泣き始めた。
近所で飼っているドーベルマンは、きちんとした檻の中で飼われていたが、毎朝通学途中で集団登校の列に向かって猛烈に吠えついていた。
番犬としては良いのかもしれないが、琉生は檻の中の大きな犬が、鋭く尖った牙を剥いたのを見てしまい、それ以来、怖くてたまらなかった。
あの大きな犬は、琉生など簡単に食い殺してしまうだろう。
大きな鍵がついていても、何度も体当たりするうちに、鍵が壊れて外れてしまうかもしれない、そうしたらあの大きな牙が……と考えて、琉生は身震いし怯えた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+「よしよし、琉生、泣くな。お兄ちゃんが隼人のこと叱っておくからな。」「えぐえぐ……」

再婚当時の琉生は、ほんのちびっこです。(*⌒▽⌒*)♪可愛い子に見えるかな。


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