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小説・約束・2 

誰も頼る者のいない米国で、親族の仲間に入ることさえ認めてもらえない妻を一人残して、軍隊に行くのはトマスには耐えられなかった。
特派員として出入りするうち、親しくなった日本大使館付きの医師、サトウだけが二人の善き理解者だった。

「君のいない南部の田舎で、サヨコを待たせるのは酷だよ、トマス。 君にもそれはわかっているんだろう?」

「スーパーマーケットで、彼女がひどい扱いをされたといって、君も怒っていただろう? これから、どうやって生きてゆくんだ。」

何度もそう説得されて、サヨコと別れる決心をした。
トマスが一人ぼっちの日本で、唯一優しかった大和撫子の手を取ったのは運命だったのだろうか・・・
異国で慣れぬ苦労をして、すっかり細くなった妻の身体を抱きしめた。

「サヨコ・・・」

夕べから、幾度その愛しい名前を呼んだだろう。
元々、誰の祝福も期待していない。
この広い世界に二人がいれば、それだけで良いと思っていた。
空を映したような、トマスの青い瞳は今は水鏡のように揺れている。
見つめる沙代子と、傍らの幼い子供。
言葉なく妻子を抱きしめ、立ち尽くすトマス・・・

「サトウ。君だけが頼りだ。 この戦争が終わったら、わたしはきっとサヨコとリンを迎えに行く。
どうか、それまで二人のことをよろしく頼む。」

サトウと呼ばれた若い医師は、異国の友人の肩を抱き寄せた。

「トマス、君の来るのをきっと待っている。 幸い、僕の家も君の家ほどじゃないが、広いからね。
サヨコとリンを大切に、預かるよ・・・。」

柔らかい亜麻色の短髪が、風に揺れる・・・
無情に別れの時が近づいていた。

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