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漂泊の青い玻璃 4 


検死の後、担当刑事は何度も寺川家に足を運んだ。
刑事の訪問は、普通の家の者にとっては余り嬉しいものではない。
隼人などは、くたびれたコートを着た渋谷という刑事に向かって、露骨に嫌そうな顔を向けた。

「刑事さん?まだ何か?」
「しつこくてすみませんね。現場に日参するのも仕事のうちでしてね。お邪魔しても?」
「断ってもいいんですか。」
「ああ、琉生さんもいらしたんですか。」
「ええ。父の四十九日の法要が済むまでは、ここにいようと思っています。」
「琉生さんの珈琲も楽しみでしてね。」
「そうですか?ただのドリップですけど……どうぞ。」
「失礼しますよ。」

年配の渋谷という刑事は、間もなく定年だという。
刑事生活で扱う最後の事件になるだろうから、事件性があるかどうか気が済むまで調べておくのだと言う。
世間話を交えながら、渋谷は琉生の淹れた珈琲に口を付けた。

父が再婚した妻を病気で亡くした後、長い間仕事も手につかないまま、鬱状態で部屋に引きこもっていたこと。
きつい酒を毎日煽ったせいでアルコール依存症となり、時折、錯乱し家族や家財に暴力を振るっていたことを、息子たちはそれぞれに食い違うことなく何度も証言した。

「あれが、その痕跡ですかな。」
「ええ。いたちごっこだったので、きりがなくて。まだ直していません。」

部屋は家政婦が来るせいで片付いてはいたが、リビングのサイドボードの硝子は割れ、ドアの下部もはめた化粧板が外れていた。

「なるほど。琉生さんは、お母さんの連れ子として、この家に入ったんですね?」
「そうです。」
「付かぬことを伺いますが、琉生さんには、お父さんや義理のご兄弟との確執はなかったんですか?」
「……確執……ですか?」

琉生に向けられた質問に、尊が答えた。

「そんなものあるわけがないでしょう。刑事さん。琉生がこの家に来たのは、小学校に上がる前ですよ。僕達は琉生を可愛がったし、母が病気で亡くなった時も、ずっと兄弟仲良くやっていこうと話をしました。それが母の望みでもあったからです。」
「まあ、こいつは妙な遠慮ばかりして、さっさと家を出て行ったけど。」
「隼人!余計なことを言わなくていい。今は、そんなことを話しているんじゃないだろう。」
「ああ、お兄さん、そのままそのまま。隼人さん……でしたかな、どんな些細な事でもお話下さい。どこに何が潜んでいるか分かりませんからね。長年、刑事などやってますと、職業病ですかね、根掘り葉掘り聞きたくて仕方がないんですよ。高校を出て直ぐに家を出たとおっしゃいましたが、それはいつごろの話ですか?何か、そうする理由でもありましたか?」

メモを取る刑事は、じっと琉生を見つめていた。

「ぼくは……中学の卒業式の翌日に家を出ました。進学が理由です。母がいなくなったら、連れ子のぼくにはもうこの家と何のつながりもありませんから。元々、いつまでも甘えているのは良くないと思っていたので、いい機会だと思いました。兄たちは引きとめてくれましたけど、血の繋がりも無いのに、父にも経済的にこれ以上の迷惑はかけられないと思いました。これまで育ててもらって、父と兄さん達には本当に感謝しています。」
「ほぉ。まだ若いのに、ずいぶんと殊勝な物言いをされますね。それで独り暮らしの生活の方は?」
「母の保険金を自由にしていいと、父に言われました。敷金などでかなり使いましたけど、学資保険にも入っていたので通帳にはまだ500万円くらいあります。そのお金で美大に通っています。生活費は、奨学金と何とかバイトでやりくりしています。」
「美大ですか。課題が多くて、寝る暇もないでしょう?大変じゃないですか?」
「良くご存知ですね。そうです。専攻が油絵科なので、時間を取られてます。」
「あなたでしたら、描く側よりも、モデルを頼まれたりするんじゃないですか?……ああ、失礼。」
「……そんな物好きな人は、いませんよ。」

老獪な刑事は、琉生に興味を持っているようだった。





本日もお読みいただきありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

琉生が家を出た本当の理由は、どこに……

[壁]ω・) 「言わないもん……」←琉生、18歳
 ( -ω-)y─┛~~~~「ほ~」


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