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朔良咲く 6 

それから二か月余り、朔良は毎日通い水中歩行訓練を続けた。

*****

疲れた帰り道、朔良は路上で途方に暮れていた。
午後から、前が見えないほどの叩きつけるような雨が降っていた。
車道に飛び出した猫を避けようとしてハンドルを切り損ね、縁石の角に乗り上げてしまった。

「あ~!もう~。」

傘も差さずに車から降りた朔良は、縁石でバーストした前輪を認めた。

「タイヤ交換しなきゃ、駄目か……」

一応教習所でタイヤ交換は習ったが、朔良は見学しただけで一度も実地経験はない。
途方に暮れた朔良は、しばらくその場に佇んでいた。近くのガソリンスタンドに行こうにも、ホイールも外れて曲がっている。裂けたタイヤでは走れそうになかった。

「えっと~、こういう時って、ロードサービス呼べばいいんだっけ……」

一人では何もできない自分に苛立つ朔良だった。

*****

一台の車が滑るように横付けする。

「あれ……朔良姫か?」

声を掛けて来た運転している男の顔を見て、朔良の顔は瞬時に強張った。
その細面に見覚えがあったからだ。
男は車から降りて朔良に近付くと、中腰でタイヤの様子を見た。

「裂けてるから、交換しないと駄目だな。スペアのタイヤは入れてる?……相当衝撃があったはずだけど、どこも怪我はないか?」

こくりと頷くと、手にした傘を差してろと渡された。
ぼんやり見つめる朔良の前で、手早くジャッキを組み立ててタイヤを交換しながら、青年は懐かしいなと口にした。

「朔良姫、俺の事を覚えているか?」
「……少しは。」
「そうか。だけど運よく出会えてよかった。ここは余り車が通らないだろ?この先の国道が工事中でさ、みんな手前で迂回してしまうんだ。俺はちょうどこの先に用が有って、とおりかかったんだ。」
「そう。あの、手際が良いね。タイヤ交換とか、慣れてるの……?」

背の高い男の顔に、見覚えがあった。
高校生の頃、島本の肩越しにいつも朔良を見て居た気がする。

「ああ、これが今の俺の仕事なんだ。」

男は朔良に名刺を渡した。

「……整備士?」
「高校で落ちこぼれてたのは、朔良姫も知ってるだろ?センターも散々で、いっそ職業訓練校に行こうかと思ってたんだけど、運よく大手の整備学校に受かったんだ。直ぐに結婚して、子供もいるんだ。」
「……あんたに興味ないんだけど……。」
「そうだよな。……ははっ、悪い。」

しっとりと濡れたスーツに気が付いて、思わず朔良は作業中の男に傘を差しかけた。

「いい、差してろ。朔良姫を濡らした何て知られたら、やばい。」
「何が?」

濡れた髪をかき上げた男は、意外な名前を口にした。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

(´;ω;`) 「車……新車なのに、下の方に傷が付いちゃった……が~ん」←自分でやってしまったから、がまん。


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