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朔良咲く 5 

最近、朔良は医師に勧められて、リハビリのため近くの温水プールに通っている。
そこには、主治医の友人で、健康運動実践指導者と理学療法士の資格を持ったインストラクターが居る。
一般客が少ない空いている時間に、僕の患者を入れてくれないかという友人の言葉を訝しく思っていたインストラクターは、朔良が入会申し込みに訪れた時、「なるほどね」と口にした。
今は、その言葉の意味が解るようになっている朔良は、小さく頭を下げた。
インストラクターは表情を変えない美々しい青年に、ちらと不躾な一瞥をくれるとスケジュール表を渡し、淡々と極めて事務的に足の話だけをした。

「そこに上がって、足を投げ出してくれる?どれだけ動くか知っておきたいんだ。」
「はい。」
「リハビリはどれほど痛くても我慢して、動かすしかないんだ。君の先生もそう言ったはずだけど……この様子だとあまり熱心にリハビリをしていないね。違うかな?」
「ええ、一度放棄しました。……反省してます。」
「取り返すのは大変だよ?ほら、ピアノの練習を三日さぼれば、元通り弾けるようになるには一か月かかるって言うだろう?ああいうものなんだ。頑張れる?」

そう言いながら、筋肉が固まってしまった朔良の足首に手を伸ばし、ぐいと力を入れた。思わず顔をしかめた朔良が、相手の顔を凝視する。

「っ……でも元通りに歩けるようにならないと、いつまでも責任を感じる人がいるから……」
「そう。織田君は自分の為じゃなくて、その人の為に頑張るんだ。」

朔良は黙ってしまった。
怪我をした自分に付き合って、とうとう大学も諦めてしまった彩。
傍に居てくれるのが嬉しくて、当たり前のように甘えてしまったが、疲れた彩の顔を見るのが辛くなっていた。
父の会社に入社した彩は変わらずリハビリに付き合ってくれていたが、日々焦燥していく。朔良は何とかしたくて、父親に頼んだことが有る。

「ねぇ、パパ。おにいちゃんの給料の事なんだけど、もっとあげるわけにはいかないの?伯父さんの病院代もあるだろうし、大変だと思うんだけど……」
「その事か。彩君には、借金の返済なんて、君が気にする事は無いと言ったんだがね。生真面目な所は義兄さんに似たんだろうなぁ。毎月少しずつ、きちんと返済してくるんだよ。」
「やっぱり、そうなんだ。」
「俺自身は給料を多くしてやりたいとは思うんだが、ほかの社員の手前もあって、えこひいきはできないんだ。経理が納得しないだろうし、そう言う個人的なことは、まず社内監査に通らない。」
「いいじゃない。親戚なんだから、特別に手当てが有ったって。」
「朔良はそう言うが、一度ポケットマネーで賞与を水増ししたら彩君にきっぱりと断られたよ。」
「……どうして?」
「実力がないのに、給料だけ一人前貰う訳にはいきません、明細に無い分はお返ししますって尋ねて来てね。確かに、入社して間もない彩君に、他の社員と同じ給料を払う訳にはいかないだろう?彩君は頭も切れるが、まだまだ新米で覚える事は山ほどある。即戦力というには程遠いのが現実だよ。」
「……僕のせいだね。おにいちゃんは僕のせいで、仕事も抜けること多いから……」
「朔良。彩君が一度でもそんなことを口にしたかい?彩君はいつだって、自分に配られたカードを投げ出したりはしないよ。朔良だって分かっているだろう?」
「うん……」
「朔良も少しは考えてみるんだね。俺は朔良が可愛くて、本来なら出来ない無理を道理として通してしまったが、朔良がもし彩君の立場だったらどうするね?彩君と同じことができるかい?」

父親が倒れた時も、傍に居るよりも仕事に行くと言った彩。
事故だって、本当は彩が全て責任を取る事は無いのに、リハビリに付き合ってくれた。
いつも笑顔を向けてくれていたから、隠された彩の気持ちを思いやることなどなかった。自分は求めるだけで、彩に何をしてきたか。

「僕……に出来る事……」

朔良はやっと彩を自由にしなければ……と思い至った。
だから思い切って距離を置き、一人でも頑張れるところを見せようと思った。

思い詰めた横顔を、ふっと笑顔で見やったインストラクターは、明日から時間を空けておくよと告げた。
ぎこちなく頭を下げて、朔良はスイミングスクールを後にした。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
何だかちょっぴり殊勝な朔良です。

(〃゚∇゚〃) 「本当はこういう性格なのでっす。」←朔良

[壁]ω・)チラッ 「嘘だと思いまっす……屈折タイプ~」←此花

「うるさいっ!」■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ 「きゃあ~」


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