FC2ブログ

小説・若様と過ごした夏・38 

お芳さんに促されて、宗ちゃんに憑いた若様は、そうっと部屋の前にいた。


不安な子供のように、宗ちゃんのつま先は小さくばたばたしていた。


「・・・本当に母上が、ここに?」


「そうですよ、さあ、若様。」


押されるように、部屋に入り対峙した。


空気がぴんと張り詰め、真夏だというのに鳥肌が立つ。


若様は400年ぶりに、おずおずと母親の前に座り、そっと胸に抱かれた・・・・


佳奈叔母さんの目から、溢れる滂沱の涙・・・


「宗次郎殿。」


「・・・母・・上?」


「そうとも、そなたの母じゃ。」


「苦労をかけた・・・ささ、これへ。」」


「母上。」


それは、感動的な美しさだった。

篠塚の現当主と、大勢のお坊さんの読経に包まれて、時を経てやっと再会できた親子が、きらきらとした光の粒子に包まれて昇華しようとしていた。


名前のなかった影様の本当の名前は、お母さんがずっと胸に秘めていたという。


「篠塚宗次郎伊周(しのづかそうじろうこれちか)」


あたしには、とても一度では覚えられそうにない・・・


名もなく影と呼ばれた若様は、やっと最愛の母上の胸に抱かれ彼岸に旅立つ・・・


綺羅の輝きに包まれて、奥方が頭を下げた。


言葉もでない圧倒的な厳かさに、あたしは正直腰が抜けそうに・・・抜けてるかも。


さよなら・・・


さよなら、若様・・・
関連記事

0 Comments

Leave a comment