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嘘つきな唇 40 

得意先から集めた十数個のビールケースを、自宅裏の空き瓶置き場に運び入れるのは、休日の彩の仕事だった。

父が倒れてからも、変わらず注文をくれる数件の飲み屋は、仕事を持つ彩の為に出来る限りの便宜を図ってくれている。
近くに量販店が出来てから、父の店の客はずいぶん少なくなったが、父の人柄を愛し変わらぬ付き合いをしてくれる人も少なくなかった
早く良くなって、注文を取りに来てくれと、わざわざ病院まで見舞いに来てくれた人までいて、闘病中の父親が嬉し涙を浮かべたと、母から聞いた。
本復するのを待っていてくれる人がいると知り、それは闘病する父の活力となった。

「よっ!と。」

ケースを高く積み上げ薄く汗をかいた彩が、一息入れようと台車に腰を下ろした。

首に巻いたタオルに顔を埋めた時、耳の横でプシュッとプルタブを跳ね上げる音がした。

「どうぞ、彩さん。」

「あ……。」

スポーツドリンクを片手に、少し照れたような片桐里流の笑顔がそこに有った。
片頬に深いえくぼができ、子供っぽい表情になる。

「おれもお手伝いしましょうか?」

「いや……もうすぐ終わるから……」

「そうですか。じゃ、ここで待ってます。」

何も無かったかのようにふるまう里流の態度に、一瞬、昨夜の事が自分の夢想の中の出来事だったらどれほどいいだろうと思う。
だが、ぎこちなく微笑む里流の顔色は、とても血色が良いとは言えなかった。

「里流。そこのビールキャリーをひっくり返して、座ると良い。二つ重ねれば……」

「やだなぁ……おれ、そんな年寄りじゃありませんよ。それに今は座るよりも立ってる方が楽なんです。」

「そうか……そうだろうな。」

ふと彩は気付いた。
もしかすると里流は自分に何ともない姿を見せるために、わざわざ出向いて来たのではないか。

「あの、里流……身体は何ともないか?」

「彩さん……昨夜の事覚えてるんですか?」

「曖昧な所もあるけど、大体のことは……。」

「ずいぶん酔ってましたね。驚きました。」

「俺は……夕べ、里流に八つ当たりをしたんだ。思ったようにいかないのは里流とは関係ないのにな。正直に言うと俺の描いた将来を、里流が行くのが妬ましかった。だから酷いことをして、憂さ晴らしをした。……すまなかった。」

「そんなに謝られたら、怒れないじゃないですか。」

里流はふっと柔らかく破顔した。

「夕べの事は忘れてくれていいです。おれは、彩さんがちゃんと弱いところもある人だって知って、ちょっと安心しました。どんな時も、まっすぐに正しい道を行く完全無欠な人だと思っていましたから。高校の時なんて、おれに弱みを見せた事なんて、一度もなかったじゃないですか。」

「お前、俺の事をどんな風に思っていたんだ?」

「血じゃなくて、オイルが流れてるんじゃないかなって考えたことありますよ。ダダンダダン……ってテーマが似合いそうだって、沢口とも話したことあります。」

「俺はターミネーターか。」

「シュワちゃん、かっこよかったですよね。彩さんはあんなごつくないですけど、おれの中ではあんな風に強くなれたらいいなぁって思う存在でした。」

「期待に副えなくて悪かった。」

「おれが好きな彩さん……なら、遠回りしてもきっと戻ってくると思ってました。」

「I'll be back……か。買い被り過ぎだ。」

「今日は久しぶりに彩さんとキャッチボールしようと思って来たんです。ほら、昔使ってたグローブ懐かしいでしょう。」

ぽんと放られたグローブは、彩が部室に残して卒業したものだった。手入れが行き届いていて、今も大切にされているのだろう。

「里流が持ってたのか?部室に有っただろう?」

里流は、我慢できずにあはは……と、声を上げた。

「卒業する時のどさくさに紛れて、盗んだんです。……どうしても欲しくて。」





本日もお読みいただきありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

何だかぎこちない二人です。あんな目に遭ったのに、里流は平気なのかな……
今でもやはり大好きで、憧れの先輩なのかもしれません。



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4 Comments

此花咲耶  

ちよさま

> ピカピカ輝いていた学生時代の先輩…

誰よりも輝いて、素敵でした。(。'-')(。,_,)ウンウン

> そんな先輩だけれども、
> 完全無欠な人ではない、弱いところもあるんだって、
> わかってよかったよね~

少し手ひどい弱さでしたけど、全てひっくるめて里流が理解できればいいなぁ……と、思います。(〃゚∇゚〃)

> 里流も、乱暴な振舞いの彩の事を、
> 何か訳があるんだ、本意ではない、と
> 信じたかっただろうし…

きっと本心を知りたくて仕方がないのです。そして、根っこは昔のままだと信じたい……[壁]ω・)

> ゆっくりでいいから、焦らないでお互いの事を
> 想いあってほしいですね。

里流の中ではきっと、あこがれの先輩の位置はゆるがないはずです。いい感じになれば良いなぁ。
>
> 此花さまのいじめっこモード、
> まだまだ続いちゃうのでしょうか
> (ΦωΦ)…‼

(°∇°;) え、え~っとぉ……ちよさん~、このちん、本当はいじめっこではないあるよ。
♪~(・ε・。)だから、心配しないでね。だいじょぶなのでっす!(`・ω・´)←ほんとか?

コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

2014/01/21 (Tue) 23:41 | REPLY |   

此花咲耶  

けいったんさま

> アノ事があったのに 里流は 彩の許へと 訪ねて来たんだね。
> Σ( ̄□ ̄ =)あっ、そうか!
> アノ事があったから 来たのか~~

[壁]ω・)……き、きちゃったのです……ちょっと歩き方が変かも。←
>
> 途絶えた関係が、また 紡がれた今 断ち切らないで欲しいなぁ。

(*´・ω・)(・ω・`*)ね~、嫌いで別れたわけではないから、許せるといいなぁと思います。

> 戸惑いながらも 里流の訪問は、嬉しいよね、彩♪
> 来ちゃった♡(*..) ポッ…∑(*゚ェ゚*)う・うん...byebye☆

(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚彩さんが笑ってくれるといいなぁ……
コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

2014/01/21 (Tue) 23:30 | REPLY |   

ちよ  

ピカピカ輝いていた学生時代の先輩…

そんな先輩だけれども、
完全無欠な人ではない、弱いところもあるんだって、
わかってよかったよね~

里流も、乱暴な振舞いの彩の事を、
何か訳があるんだ、本意ではない、と
信じたかっただろうし…

ゆっくりでいいから、焦らないでお互いの事を
想いあってほしいですね。

此花さまのいじめっこモード、
まだまだ続いちゃうのでしょうか
(ΦωΦ)…‼

2014/01/21 (Tue) 19:21 | EDIT | REPLY |   

けいったん  

アノ事があったのに 里流は 彩の許へと 訪ねて来たんだね。
Σ( ̄□ ̄ =)あっ、そうか!
アノ事があったから 来たのか~~

途絶えた関係が、また 紡がれた今 断ち切らないで欲しいなぁ。
戸惑いながらも 里流の訪問は、嬉しいよね、彩♪
来ちゃった♡(*..) ポッ…∑(*゚ェ゚*)う・うん...byebye☆

2014/01/21 (Tue) 12:52 | REPLY |   

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