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嘘つきな唇 34 

居酒屋の奥の部屋で、従業員にふわりと掛けられたブランケットの温もりに、彩は眠りを深くしていた。
連日数時間の睡眠で、新しいシステムのプレゼン練習に没頭してきた疲れがどっと押し寄せて来ていた。聞こえて来る会話が、眠りに落ちてゆく耳に心地よかった。

「爆睡だな。」

「身じろぎもしませんね。目の下の隈、ひどいっすね。クソまじめだから、ずっと寝てなかったんだろうなぁ。」

「そこがお前と違うところだよ。だが、このままにしておくわけにもいかないし……タクシー呼ぶか。」

「あの、もしよければ……おれ、この人の知り合いなんで、仕事が終わったら送って行きますよ。」

「お?そうなのか?」

従業員が声を掛けて来た。

「悪いね。仕事の疲れが出たんだろう。送ってくれるのなら、もう少し寝かせてやってくれないか。今日、大きな契約が取れて、こいつも気が緩んだんだろう。幸い、明日は休みなんだ。」

「へぇ。お仕事が上手くいったんですか?……良かったですね~。じゃ、仕事がはけるまでこのままに……」

どこか遠くで居酒屋の店員らしき男と、上司が交わす会話を子守唄代わりに、彩の眠りはますます深くなっていった。
耳の奥で響く声に、思わず心の内で名を呼んだ。

「……里流……」

懐かしい姿が、夢の中で手を振った。

「彩さ~ん……!」

*****

微かな振動と体温を感じていた。
気付けば誰かの背の上にいる。彩は上司の背中と勘違いして驚いて飛び降り、よろけた勢いで盛大に路上にひっくり返った。

「あっ!織田先輩。大丈夫ですか?」

「いって……里流?!何で、お前がここに……?」

屈託なく向けられた変わらない笑顔に、ふと引き込まれそうになる。

「お久しぶりです、織田先輩。おれ、あの店でバイトしてたんです。大学の休暇の間だけなんですけど……話がしたかったんで、会社の方に家を知ってるんで送らせてくださいって頼みました。」

「大学……?そうか、里流は大学に行ってるのか。」

「はい。おれも織田先輩のようになりたくて、教育学部です。」

「俺のように……?」

「織田さんはおれの人生の師ですから。いつか話してくれたじゃないですか。」

手を貸して彩を起こす里流の身体は、昔と違って身体を預けても揺らぐ事は無く、かなりしっかりとしているようだった。
彩はぐらりと揺れる視界に、自分がしたたかに酔っているのを感じていた。

「……目が……回る。気分が悪い……」

「織田先輩、大丈夫ですか。どこかに入って休みますか?」

後になって彩は深く後悔する。
その時、彩はどうかしていた。

「現実」に足を取られ、その場から進めないでいる自分を心配する里流が、哀れむように憐憫の表情を浮かべた気がする。

里流は先輩のように成りたくてと口にした。
ずっと背中を追って来ていた後輩が、少年のころと変わらぬ無垢な笑みを湛えて、彩の歩きたかった道を行く。
ふと、やっかみにまみれた凶暴な感情が芽生えた。

「……里流。そこの……ホテルへ行こう……」

「えっ……?」




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

再会はしたものの、何やら不穏な事が起こりそうな感じです。どうなりますやら……

[壁]ω・)チラッ……エチかもよ……

(´-ω-`)うそつけ。←大方の読者さま


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