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嘘つきな唇 33 

そして翌日から毎日、変わることなく彩は会社へと通っていた。
まるで何事もなかったように、淡々と仕事をこなす日々を送っていた。
たまに同僚に誘われても断らずに、酒を飲むようになっていた。

父の方は、まだ半身に麻痺が残っているものの、顕著に快方へと向かっていた。少しずつ改善するだろうと医師が請け負ってくれた。
朔良のリハビリに長く付き合ったように、今度は母が父を支えてゆく。

商売の方はと言えば、近所の住人が母親が店に居る時に、少量の缶ビールなどを買ってゆくが売り上げは微々たるものだった。
彩の稼ぎが、僅かしか収入の無い両親を支えていた。貰い始めた年金の殆どは、借金払いに充てられた。
ゆっくりと過ぎてゆく日々の中で、日々の生活に追われ、いつしか彩は夢を胸に秘め口にしなくなっていた。

*****

「織田。今夜一杯行くか?プレゼンが上手くいったお祝いをしよう。」

「はい。付き合います。」

憂さ晴らしを覚えたと言うのではないが、時々酒で得る高揚感が性に合うと思う。
同僚に誘われて時折行く居酒屋でも、彩は殆ど乱れる事無く付き合った。
本心を出すことなく、うわべだけで付き合うのにも少しは慣れた。

「なぁ。おまえさ、付き合いも出来ない堅物だと思ってたら、そうでもなかったんだな。クソまじめなつまんない奴だと思っていたが、付き合ってみると話も面白くて意外だった。な~?」

「ですよね。何か誤解してたって言うか……」

振られて同僚が肯いた。

「ははっ……よくそう言われますよ。昔っから不器用で一つの事しかできないんです。こちらこそ、これまで付き合いの悪いつまんないやつですみませんでした。」

「織田は最近、仕事中に抜けることもなくなって来ただろう?仕事に本腰入れるのは良いが、親父さんや社長の綺麗な坊ちゃんのリハビリはもういいのか?お姫さまのお守り役からは、もう無罪放免か?」

「親父が倒れてから、朔良はリハビリに一人で通ってるんです。つか、お姫さまって朔良の事ですか?いくらなんでも、二十歳過ぎの男にお姫さまは可哀そうですよ。」

「いやいや。あれはすごいよ。俺は男を眺めて綺麗だなんて一度も思ったことなかったけど、朔良君は特別だね。間近で見ると、男だと知っていても何かこう妖しい気持ちになって困る。鳥肌が立つね。」

「そうですか?ガキの頃から知ってるから、俺は何ともないですけど。」

「織田は耐性ついてるからだろ。こいつなんてさ、ほら一度送迎を頼まれただろう?助手席に乗せて以来、いまだに夢見心地なんだ。散々、受付の麻紀ちゃんが良いとか言ってたくせに、思いっきり宗旨替えだな。」

「そっちに行くと、まずいっすよ。でも、朔良君なら冗談抜きでありかな~とか思いますよ。麻紀ちゃんは麻紀ちゃんで現実にお願いしたいけど、あんまり綺麗だと手が出ませんね~。」

「お前が有りでも、向こうには無しだろ。受付の麻紀ちゃんには、もうぼちぼち本腰入れて勝負賭けろよ。そういや最近は織田にくっついていないから、朔良君にも会えないな。」

「寂しいっすよ。織田の顔眺めてても、つまんないっすもんね~。」

「なんですか、それ。」

笑顔で話しながら、彩は昔と変わらない朔良の透明さに向けられる周囲の視線は、いつもこんな風に一方的だったと思い出す。
誰もが朔良の気持ちなどお構いなしに、綺麗な花を手折るように朔良を欲しがる。
一瞬脳裏に、壊れた人形のように冷たい草むらに打ち捨てられて、呆然と空を見つめていた、傷だらけの朔良の姿がよぎった。

*****

さすがに今は朔良も伯父が闘病中なので、彩の手を取ることを遠慮しているようだった。仮免許から本試験に合格して買った車を見せに来たきり顔を見せていなかった。
何を思ったか、あの子は一人でプールに通っているんだよと、社長である伯父から話だけを聞いて、意外に思って居たが、忙しさにかまけて声を掛けていなかった。

「たぶん朔良もそろそろ前を向き始めたんだと思います。いつまでも、小さな子供のように俺の後を付いて歩くわけにもいきませんしね。」

「タイミングと言えば、ちょうど織田も大きなプロジェクトに参加させてもらえたのも、運が良かったな。正直、織田に営業が合うかどうか心配したが、かなり向いてると思うぞ。」

「そうですか?ありがとうございます。うれしいっす。」

「プレゼンがぎこちないのも、誠実に見えてよかった。自信がなさそうって言うんじゃなくて、相手方に製品の良さを必死に伝えようとしている気概が見えた。質疑応答が良かったって、向こうさんにも高評価だったぞ。」

「え~。織田の事べた褒めじゃないですか。俺が初めての時なんか、なってないって二時間ず~っと説教だったのに~。」

「織田は頑張ってるからな。ずっと独学で勉強してるのも知ってる。だがな、理屈よりも実践で解決することも多いんだ。遠慮しないでどんどん聞きに来い。俺に判ることなら何でも教えてやる。」

「はい、ありがとうございます。」

彩は軽く頭を下げた。
共に働く仲間たちとの垣根が取れてゆくようで、嬉しかった。
夢を諦めざるを得なくなっても、正直気持ちはまだ吹っ切れてはいない。
それでも父の容体を思えば、これでいいと僅かながらも思えるようになっていた。

次々注がれるビールはやがて焼酎へと変わり、いつもよりかなりのグラスが空いていた。初めて仕事で得た手応えと安心感に、彩はついぐっすりとその場に寝こんでしまう。





本日もお読みいただきありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

彩の夢は潰えてしまったのでしょうか。可哀そうにね~……(´・ω・`)


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4 Comments

此花咲耶  

みかさま

> 朔良くんもがんばっていますね。
> でも狭間にいるのかな。
> 狙われるウサギちゃんのですか・・・

もう大人になったので、自分の足で進まないといけないのですが、難しそうです。此花に時々いじめっ子の神がおりてくるのでっす……(´・ω・`)
>
> でも彩・・・
> うまく周りと協調できるようになったようですが、空虚な部分も併せ持っていることでしょう。

おそらく、自分ではどうしようもない感情です。納得していながらも、時々なぜ自分だけ……と思っている気がします。表に出ない屈折タイプ。

> どうでもいい話ですが、きえさんの昔の片想いの相手が彩(あや)さん(♀)で、ついそう読んでしまうのです。
> 一度しか会ったことがありませんが、セーラー服の似合う、かっこいい方でした。
> (スケバン刑事ではないですよ←古すぎる・・・・ 中学の同級生だったかしら
> そういう私も浅○唯さんにハマった時があったので、話が合っていたのです)

ヽ(゚∀゚)人(゚∀゚)ノ此花の好きだった方は、バレー部の方でした。お名前を忘れてしまったのですが、試合を見に行ってきゃっきゃっ言いました。試合で使っていたはちまきを「あげましょうか?」と言われて、赤面して逃げ帰りました。←昔は可愛かったです…… (´-ω-‘)←昔すぎじゃね~か……女子高でした。

> それで、寝込んだ彩くんはどうなってしまうのかしら~~~

うふふ~続きはうぇぶで~■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ
甘い展開になれば良いのでしょうが、このちん時々いじめっ子だから、一波乱なのです。

コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

2014/01/12 (Sun) 08:39 | REPLY |   

此花咲耶  

nichika さま

> 彩~ 少しづつ周りとも 付合いが出来るようになって良かったね 

(〃ー〃)ありがとうございます。何とかやっています……←彩

 が(゜□゜川)
> なんか起きそう  いやおきるって (なんの掛け合い漫才?)←それでは此花ちんへ

やっとかきたかった場面に入ってきました。こういうお話は書いたことがなかったので、展開に困ってしまいます。がんばりまっす!(`・ω・´)

コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)


2014/01/12 (Sun) 08:31 | REPLY |   

みか  

おはようございます

朔良くんもがんばっていますね。
でも狭間にいるのかな。
狙われるウサギちゃんのですか・・・

でも彩・・・
うまく周りと協調できるようになったようですが、空虚な部分も併せ持っていることでしょう。

どうでもいい話ですが、きえさんの昔の片想いの相手が彩(あや)さん(♀)で、ついそう読んでしまうのです。
一度しか会ったことがありませんが、セーラー服の似合う、かっこいい方でした。
(スケバン刑事ではないですよ←古すぎる・・・・ 中学の同級生だったかしら
そういう私も浅○唯さんにハマった時があったので、話が合っていたのです)

それで、寝込んだ彩くんはどうなってしまうのかしら~~~

2014/01/12 (Sun) 06:42 | REPLY |   

nichika  

お疲れ!

彩~ 少しづつ周りとも 付合いが出来るようになって良かったね  が(゜□゜川)
なんか起きそう  いやおきるって (なんの掛け合い漫才?)←それでは此花ちんへ

2014/01/12 (Sun) 04:01 | EDIT | REPLY |   

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