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小説・若様と過ごした夏・37 

その頃、佳奈叔母さんはおばあちゃんの助けを借りて記憶をどんどん手繰り寄せ、自分の中にいる奥方と向き合っていた。


守護霊との対話は、話を聞いていても不思議な感じがする。


「宗太郎とは、わたくしの子供の名じゃ。

その方の嫡男も同じ名なのか。」


「そうです。わたしも双子を生み、一人をなくしました。」


「気の毒にの・・・

子を失う辛さは、同じ思いをしたものでなければわからぬ。

そなたも、わたくしと同じ思いをしたのか。」


おばあちゃんの言うには、まるで問わず語りのように佳奈叔母さんは、ぶつぶつと一人で言葉をつむいだらしい。


「奥方様のお亡くなりになった、お子様のお名は?」


「わたくしの・・・あの子」


「わたしの亡くなった子供には、宗次郎と付けました。」



奥方様は(現実には佳奈おばさんだけど)


「そうであった。

わたくしも兄は宗太郎、弟は宗次郎と密かに名をつけていたのだが、その名で呼んでやることはかなわなかったのじゃ。」


「あの子は、宗太郎の影として生まれ、名を呼んでやる事もなくそのまま亡くなった・・・。」


「燃え盛る火の中に置き去りにしたその後は、余りに悲しみが深くて、わたくしは宗太郎しか見ておらぬ。」


「共に腹を痛めて産んだわが子を、せめて腕の中で逝かせてやりたかった・・・」


「宗次郎・・・母は、抱いてやることも叶わなかった・・・」


佳奈叔母さんは、ほろほろと泣いた・・・らしい。


佳奈叔母さんと、守護霊として存在する母親の霊には余りに共通点があった。


まるで引き合ったかのような、篠塚の二人の母親。



「わたしは、佳奈が双子の一人を失って、田舎に帰ってきたとき、残された子供のためにしっかりなさいといったけど、酷だったわね。」


「そんな割り切れるものじゃないって、知っていたはずなのに。

わたしもいい母親では、ないわ・・・」


おばあちゃんは、ほっとため息をついた。


ご住職の部屋に、佳奈叔母さんは待っている。


宗ちゃんの母親として。


若様の母上として。


呼べなかった「宗次郎」と言う名前を持って。


大法要の読経が始まろうとしていた。

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