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嘘つきな唇 28 

気付けば、あの事故から三年の月日が過ぎていた。
週三日のリハビリは少しずつ効果を上げ、朔良は流れる足を引きずりながらではあったが、杖の助けを借りて何とか自力で歩行していた。
彩が傍に居る事で落ち着きを得て、朔良の親も喜んでいた。

しかし、以前のように普通に歩けるようになるには、痛めた足にもう少し体重をかけて歩く訓練をしなければならない。痛みに弱い朔良に、それはかなり困難だった。
一度変な歩行癖がついてしまった朔良には、矯正に時間がかかるだろうと医師が告げた。

「これからも根気よく時間をかけて、練習するしかないね。朔良君、時間があるなら、プールでの歩行練習をやってみないか?身体への負担が軽減されるから、歩きやすいと思うんだ。抵抗がないから杖を使う必要がないからね。近くにトレーナーの居る温水施設があるから紹介状を書くよ。」

朔良はちらりと彩の顔を見た。
彩は数日前に耳にした会話を引きずっている。
元々、朔良の足が少し良くなれば大学に行きたいと思っていたのが、話をきっかけにして強くなっていた。

「先生。時間をかけてとおっしゃいますけど、どのくらいの期間が必要ですか?」

「……というと?」

「出来れば期限を切ってもらえば、俺も予定が立てやすいので助かるんです。」

「おにいちゃん……?それって……」

朔良は、彩が自分の手を離そうと考えているとは思ってもみなかった。
だが彩は、あっさりと本心を口にした。

「そろそろリハビリにも目途がついたかなと思ってさ。朔良にも以前に話したと思うんだけど、俺は教師になりたいんだ。」

「……うん。聞いたことある……夢だよね。」

「元々、一年間は朔良のリハビリに付き合うつもりで、傍に居る事を考えていたんだ。怪我が酷かったんで結局三年もかかってしまったけど、できれば俺はこれからでも大学に行きたいと思っている。少しはお金も貯まったし、独学でずっと勉強だけは続けて来てたんだ。」

諦めていなかったと知り、見開いた朔良の瞳が驚愕に潤んだ。
朔良はこのままずっと、彩が自分の傍に居るものとばかり思っていた。

「もう……お終いってこと?ぼくのお守りは飽きたってこと?……知ってたよ。会社で何かあったんでしょう?この最近、おにいちゃんはずっと話しかけても上の空だった……もうパパに話をしたの?」

「朔良……その話は後だ。あの、先生。ちょっといいですか?ずっと朔良の付き添いをして様子をずっと見てきました。今はまだ杖が頼りだけど、朔良は一人でももう十分にやっていけるんじゃないかと、俺は思っています。もうすぐ免許も取れますし、一人で通えると思います。」

医師は困ったように朔良の顔と彩を見比べた。
彩がいなければリハビリが進まないことを、医師は十分に知っている。
身内の誰でもなく、彩の腕にべったりと依存してやっとここまで回復してきた。
朔良が彩に褒めてもらいたくて、固まってしまった筋肉をほぐす辛いマッサージも、歯を喰いしばって耐えているのもわかっている。
反面、彩が事故の責任を感じ、これまでどれだけ献身的に朔良に尽くして来たかも、担当医は十分知っていた。

「そうだね。小さな子供もいつか独り立ちする。そろそろ次のステップを考える時期かもしれないね。この一年間、朔良君はとてもよく頑張って来たと僕は思うよ。リハビリセンターから転院してきたときには、もう朔良君は自分の足で歩くのを諦めて、一生車椅子に乗る気なのかと危惧した位だ。彩君が傍に居ないときは、まるで癇癪持ちの王子様のようだったしね。」

医師は朔良に立ち上がるように勧めた。

「ほら……今は、こうして自分の足で真っ直ぐ立てる。足首の細さに差はあるけど、歪みも大した事は無い。このあたりで朔良君も心機一転して、新しいことを始めてもいいんじゃないか?君が将来何になりたいか僕は聞いた事は無いけど、可能性はたくさんある。いつまでも事故を引きずっていちゃいけないよ。君も彩君もまだ若いんだ。朔良君には夢はないの?」

「……夢なんて……」

朔良は押し黙ったまま、足元を見つめていた。
朔良にとっては、リハビリよりも彩が傍を離れようとしていることの方が重大だった。




本日もお読みいただきありがとうございます。
……今年も、展開が遅く、そしてエチ場面が果てしなく遠いです……



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