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優しい封印 番外編 「求と準一郎」 

ゲームに興じている準一郎の傍に、そうっと求は近付いてきた。機嫌がいいかどうか、様子を伺いながら声を掛ける。
気に障ると、すぐにげんこつが飛んでくるので、求は慎重だった。
年の離れた従兄弟の準一郎は、求にとって仲良くしてほしいけど、ちょっと怖い親戚のお兄ちゃんという存在だった。

「お兄ちゃん~。あのね、ぼく明日の朝、蝉取りに行きたいの。行ってもいい?」

「蝉?ミンミンやかましく鳴いてるやつとっ捕まえて、何が楽しいんだ?つか、今、ゲーム中だ。終わるまで待ってろ。」

「……みい君が、神社に蝉取りに行こうって……誘ってくれたよ。ねぇ、行っちゃだめ……?」

「うるせぇっ!学校以外は俺の傍にいろっって言ってんだろうが。」

何時も義兄はそんな調子だったが、今回の求は食い下がった。

「だって……ぼく、かぶと虫も取りに行けなかったんだよ。お兄ちゃんが行っちゃだめって言うから、ぼく、いつも行けないんだ……えっ……ん……」

「ぴぃぴぃ泣くなっ!あっ、くそ~、マリオが落ちた!求のせいだぞ。馬鹿っ!」

「……お兄ちゃんが、ぶった~、え~ん……」

「あ~~!!辛気臭ぇなぁ。何だよ、求は蝉が好きなのか?」

「……うん。かぶと虫も好き。」

「かぶと虫……ってことは、神社だな。」

「明日まで待ってろ。付いて来るなよ、ばれると面倒だからな。」

「……うん。お兄ちゃん、どこいくの?」

「うるせぇ。求はさっさと寝ろ。」

「ん……。おやすみなさい。」

泣きべそをかいた求は、準一郎の部屋のベッドに滑り込んだ。
準一郎は求が寝息を立てるのを確かめると、物置からバッテリー付きの大きなチェンソーを持ち出した。しらじらと夜が明ける前、こっそりと神社の境内に向かうと、躊躇なくバリバリと御神木を数本切り倒した。

*****

「求!起きろ。」

「……ん~……お兄ちゃん……もう、がっこ?」

「寝ぼけてんじゃねぇ。ほら。」

「う、うわぁ~っ!」

枕もとの虫かごには、大型のクワガタムシ、かぶと虫が、ぎゅうぎゅう詰めに入っている。
牛乳瓶に立てた枝には、羽化が始まった蝉が、白い翅を震わせていた。

「うわぁ……初めて見たぁ。蝉の白い翅って、すごくきれいねぇ、お兄ちゃん。」

「おう。」

お友達と一緒に、朝早く蝉取りに行きたかった話は、求の中であっさりと吹き飛んでいた。

「ありがと。お兄ちゃん。」

「うるさい。もう一回、寝ろ。」

「蝉の羽化、見るもん。お兄ちゃんも見ようよ。」

「勝手にしろ。」

求は目を輝かせて、大量の甲虫の入った虫かごを抱えて、蝉の羽化に見入った。

準一郎はただ一人自分を恐れない、8歳下の小さな従兄弟が可愛くて仕方がなかった。求を喜ばせるのに、他人がどう思おうと、迷惑を掛けようとどうでも良かった。
求さえいれば、誰も自分を理解せずともいいと思っていた。

朝、老人会の面々が神社の境内の清掃に来て、御神木が切り倒されているのを発見し、大騒ぎになった。大木が倒れて小さな祠が下敷きになり、中に収めてあった由緒正しい御神鏡が割れていて、年寄りたちは色めきたった。

「どうせ、間島の悪たれがやったに違いない。あの罰当たりが!」

「町長、いくらあんたが町のために働いているって言ってもなぁ、今度ばかりは倅を警察に突き出すしかないぞ。」

神社の神主も担ぎ出されて、共に清掃作業に加わっていた間島町長に詰め寄っていた。町長夫妻は、小さくなって頭を下げ続けていた。

「申し訳ございません。神社の祠は責任を持って元通りに致します。今後は、このようなことはしないように、言って聞かせますので……どうぞお許しください。」

「すみません……すみません……」

「まあ、何とか元通りにしてくれるのなら……」

多額の寄付金を申し出て、平身低頭、ひたすら頭を下げ続ける両親のことなど考えもしない準一郎だった。
御神木よりも、求の笑顔の方が大切だった。
二人、頬杖をついて蝉の羽化を見守っていた。

「求。お兄ちゃんが好きか?」

「うん。好き。」

「どこにもいかずに、ずっと傍に居ろよ。約束できるな?」

「う……ん。約束……する。」

何気なく交わした小さな約束は、命がけの「契り」となった。
注がれ続けた準一郎のただ一つの想いは、求にとって苦しい枷でしかなかった。

*****

それでも……

それでも、初夏に蝉の鳴く声を聞く時、求は自分にだけは時々優しかった、年の離れた義兄の事を思い出すだろう。
帰郷する車内で、白い布に包まれた箱に眠る準一郎を、求はそっと抱きしめた。




求さんと鬼畜な準一郎の出会い編です。

まだ求は養子に来たばかりで、6歳くらい。準一郎は14歳くらいです。
書いてると、ちょっと間島のことが拾いたくなってしまいます。

またね。此花咲耶



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3 Comments

此花咲耶  

ちよさま

> 幼い準一郎が求に与えた優しさ。
> それは、求を喜ばせるためだけの
> 盲目的な優しさだったけれど…

その通りです。しかも喜ばないことなんて想像もしない、押し付けがましい優しさです。こんな優しさは、人を駄目にしてしまいます ……(´・ω・`)

> 養子として親元を離れて間島家に
> 来たばかりの幼い求には、
> すがりたい何かがあったのかな…

きっとあの親ですから、良くも悪くも相手をしてくれたのは準一郎だけだったのです。

> 時が経つにつれ重い枷となってしまったけれど、
> 大人になった今の求さんなら、
> 愛を求める間島の心の歪みも、
> 不器用なところもご理解されているよね。

(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+書いてくださった感想読んで泣けてしまいました。←書いといて。

>
> 誰も自分の事を理解してくれなくても
> いいと思っていた間島準一郎。
> 理解してくれる人は居ましたよ。

気がつかない愚かな人生でした……(´;ω;`)
深くお読みいただきありがとうございます。
>
> 幼い頃、求と過ごした地へ帰る途中、
> 求さんが抱きしめてくれたね。
> 現世では叶わなかったかもしれないけれど、
> 少しは救われたかな…。゚(PД`q)゚。

きゃあ~ちよさま。(ノ´▽`)ノヽ(´▽`ヽ)思いがけず拙い文章を深く読んでくださった方が多くいらして、このちんびっくりです。
みんな優しい方たちばかりなのだなぁ……
一番入れたかった場所に、気づいてくださった方がいっぱい。(°∇°;) す、すげ~

宝物のようなコメントいっぱいいただきました。
ありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪

2013/06/23 (Sun) 09:40 | REPLY |   

ちよ  

幼い準一郎が求に与えた優しさ。
それは、求を喜ばせるためだけの
盲目的な優しさだったけれど…

養子として親元を離れて間島家に
来たばかりの幼い求には、
すがりたい何かがあったのかな…

時が経つにつれ重い枷となってしまったけれど、
大人になった今の求さんなら、
愛を求める間島の心の歪みも、
不器用なところもご理解されているよね。

誰も自分の事を理解してくれなくても
いいと思っていた間島準一郎。
理解してくれる人は居ましたよ。

幼い頃、求と過ごした地へ帰る途中、
求さんが抱きしめてくれたね。
現世では叶わなかったかもしれないけれど、
少しは救われたかな…。゚(PД`q)゚。

2013/06/23 (Sun) 01:02 | EDIT | REPLY |   

此花咲耶  

拍手コメントさとうさま

きっと、求は間島にとって唯一無二の存在でした。とんでもない奴でしたが、間島の心情を汲んでくださってありがとうございます。
誰も理解者がいなかったのが、間島の不幸でした。
書いてくださったような、叱ってくれる人が傍に居たら、人生が変わっていたかもしれません。
すごく素敵なエピソードを教えてくださって、ありがとうございます。(〃゚∇゚〃) 良いお話しでした。きっと、その方にとっては、とてもありがたい存在だったのでしょうね。
なんか、此花もうるっとしてしまいました。
コメントありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪

2013/06/23 (Sun) 00:40 | REPLY |   

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