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優しい封印 31 

劉二郎は、利口な番犬のように廊下で待っていた涼介を呼んだ。
極道として、数々の修羅場をくぐって来た自分だから言える言葉がある。

今は正気に見えても、散々に純度の高い覚醒剤を使われた求は、いつフラッシュバック状態に陥るかもしれない。そうなると苦痛から逃れるために、再び薬に溺れるかもしれない。
落ち着いたとはいえ、今も求の拳は薬の影響で小刻みに震えていた。

「あのな、こいつはあんたを助けたい一心で、この年寄りの懐に飛び込んだんだ。だから、あの恐ろしい男から、あんたを取り戻せた。わかるかい?」

「……は……い。」

「縁もゆかりもない俺に、涼介はあんたを助けたいと言った。きついことを言うようだが、きっとあんたは何もわからず最初に退(ひ)いたのだと思う。」

「ひ……く……?」

「ああ。無体を言われ、脅され傷付けられたら、誰だって最初は必死に拒んでいても、もういいかと思う時が来る。何時かはわからないが、まっとうな感覚が麻痺しちまうんだ。それを極道は、「退く(ひく)」と言うんだ。」

求の顔が歪んだ。
間島の暴力にさらされ続けたあの日、抗い続けていた求は確かに「もう、いい。少しの辛抱で済むなら我慢しよう。」と思ってしまった。ほんのしばらく目をつむっていれば、恐ろしい嵐は過ぎてゆく……と。
それが極道にとっては、つけ込む綻びになるんだ、と鴨嶋は静かに語った。傍に居る涼介にもわかるように話して聞かせているのだろうと、由紀子は理解した。

「だから、こうと決めたら、決して退いちゃならんのだ。」

一つ下がって相手を受け入れてしまえば、相手は次はどうだと迫ってくる。二度が三度になって、もう転がり落ちてゆくしかなくなる。そしてぼろぼろになるまで蹴散らされ蹂躙される。求が最初に間島の暴力に屈し、抵抗をやめた時、こうなることは決まっていたんだと劉二郎は告げた。

「だがなぁ、猪みたいな極道にも落としどころと言うものがあってな。喧嘩の時の手打ちなんぞがそうだ。世間の鼻つまみ者の俺にも出来ることが、残念ながらあんたの周囲の大人達にはできなかった。初手から間違っていたんだ。踏みとどまる方法を知らなかった、あんたが悪いわけじゃない。相手が悪かった、それだけだ。」

「……ぼ……くは……義兄さんに……」

「自由にしてやるって言われたんだろう?」

「は……い。」

「時間はかかったがな、あんたは勝ったんだよ。どん底に落ちずに、踏みとどまった。えらかったな。」

「あぁ……」

涙は堰を切ったように止まらなかった。
抱えていた胸の中の固い氷が、解けてゆく。
由紀子に出会うまで誰にも理解されなかった孤独な心が、劉二郎の柔らかな言葉で溶きほぐされてゆくような気がしていた。

「間島はあんたを自由にすると言って……自殺した。……こんなことを言うと、由紀子さんや涼介には叱られるかもしれないが、俺にはあんたは、もうあいつを許している気さえするんだ。違うかい?……」

咽びながら求はこくりと頷いた。

「乗り越え……ま……す。きっと……鴨嶋さんが……勝った……と言ったのは……間違いじゃなかった……と、言って……もらえるように……」

「なぁ、涼介よ。強いお父さんだなぁ。」

涼介は満面の笑顔を向けた。

「おれの、お父さんだもん。じいちゃんも、六郎の兄貴も月虹の兄貴も、おれの周りは強い男ばっかりだ。」

「そうだな。」

「さ、帰るぞ。そろそろ、銭湯が開くころだ。」

「うん。あの死ぬほど熱い風呂屋ね。」

「今日こそ、100まで数えろよ。」

「やだよ。ゆでだこになっちゃう。」

「ははっ……」

ぐしゃぐしゃと涼介の頭を掻き混ぜ、劉二郎は病室を後にした。




本日もお読みいただき、ありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
求さんは、何とか立ち直れそうな気がします。

一話延びて、明日が最終話になります。
よろしくお願いします。(`・ω・´) 此花咲耶


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4 Comments

此花咲耶  

nichika さま

> じっちゃんではなくじいちゃんなのね 

(*⌒▽⌒*)♪じっちゃんの名に懸けて!

>やはり人生の先輩 いつフラッシュバックが起こるかも知れない心配があります  
>一度きちんと求さんを泣かせて浄化することで正常な生活に戻す力を与えたのかな、

泣くことって必要ですよね。大人はなかなか泣けないけれど、じいちゃんみたいにうんと年上の人の話はきけたのかもしれません。
 
お話ですが、極道=最後の人の道に逸らさないようにする(古い任侠です) 記憶違いかも。

ちょっと調べたら、極道という言葉は、仏教の道を究めた徳の高いお坊さんに使ってたみたいです。「極道者」は道を極めた者という意味です。
今とは正反対の意味ですね~(´・ω・`)

いよいよ、最終話でっす。コメントありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪

2013/06/21 (Fri) 20:33 | REPLY |   

nichika  

あかん

じcっちゃんではなくじいちゃんなのね  やはり人生の先輩 いつフラッシュバックが起こるかも知れない心配があります  一度きちんと求さんを泣かせて浄化することで正常な生活に戻す力を与えたのかな、  お話ですが、極道=最後の人の道に逸らさないようにする(古い任侠です) 記憶違いかも。

2013/06/21 (Fri) 06:42 | EDIT | REPLY |   

此花咲耶  

ちよさま

> 求さん…
> まだまだ本復をとげたわけではないけれど、
> 諦めてはいない強い心が見れて安堵いたしました(*˘︶˘*).。.:*♡

結構過酷な半生を生きてきた求さんです。
(`・ω・´)求「諦めないでがんばりまっす!」
>
> 涼介も周りに居るみなさんのように
> 強~い男になるんだぞ! ҉*(๑•ω•๑)/*҉

(。'-')(。,_,)ウンウン がんばるよ~。周りに見本がいっぱいいるから、きっとがんばれると思います。

> ま、取り急ぎ、じいちゃんさんの
> お背中ゴシゴシを ~

(´・ω・`) ……熱いからなぁ、あの風呂。
家の風呂なら、ゆっくりぬるめの風呂に入れるのに、体に悪いぞ。
 ( -ω-)y─┛~~~~男は黙って熱い風呂だ。

コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

2013/06/20 (Thu) 23:13 | REPLY |   

ちよ  

求さん…
まだまだ本復をとげたわけではないけれど、
諦めてはいない強い心が見れて安堵いたしました(*˘︶˘*).。.:*♡

涼介も周りに居るみなさんのように
強~い男になるんだぞ! ҉*(๑•ω•๑)/*҉

ま、取り急ぎ、じいちゃんさんの
お背中ゴシゴシを ~

2013/06/20 (Thu) 21:37 | EDIT | REPLY |   

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